紫陽花が泣く頃に



きっとこれは、美憂が神様にお願いした雨だった。

きみを失って立ち止まっていた俺たちを、彼女は雨を使って引き合わせてくれた。

美憂がいない世界で、どう生きるのか。どうやって前に進んでいけばいいのかをずっと探していた。

でも、それはとても簡単だった。

忘れるのではなく、乗り越えるのではなく、美憂と共に生きればよかったんだ。

それに気づくまで、ずいぶんと遠回りをしてしまった。


俺たちは手紙を大切に閉まって、東屋を出た。あんなに耳障りだった雨の音が、今ではとっても心地よい。傘を傾けて、柴田は手のひらに雨を乗せていた。

「あ……」

柴田の視線が空に向けられる。俺も合わせるようにして見上げると、分厚く覆われていた雲の切れ間から光が見えた。

久しぶりに太陽が顔を出す。灰色だった町が色づきはじめる。俺は静かに傘を閉じた。身体は濡れない。その代わりに、暖かな陽射しが頬に当たっている。

「雨、上がったね」

柴田が潤んだ瞳で笑った。俺は自然と彼女の手を握っていた。驚いた顔をしていたけれど、手は振り払われない。むしろ不器用にぎゅっと強く握り返してきたのは柴田のほうだ。

「見て、虹が出てる」

雨上がりの町にかけられた七色の架け橋。

あの虹は希望に満ちた未来へと続いている。


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