紫陽花が泣く頃に


「ねえ、柴田さん」

休み時間。クラスメートの女子に声をかけられた。

「英語のノートの提出がまだなんだけど……」

取って食ったりしないのに、怯えたように聞かれた。私のことをまだ怖いと思っている女子も多いみたいで、気を使われているのがよくわかる。こういう時はどういう接し方をすればいいのか、いまだによくわからない。

「英語、昨日やってたじゃん。もしかして家に忘れてきた?」

会話に割り込んできたのは小暮だった。彼は無意識なのかもしれないけれど、私が困っている時には必ずフォローしてくれる。

「忘れてるわけないじゃん」

私はカバンからノートを取り出した。そして渡す時に「提出するのが遅れちゃってごめんね」と伝えた。

最近になってやっと、ありがとう、ごめんなさいを素直に言えるようになった。

「ううん。大丈夫。ありがとう。柴田さんって和香って名前だよね? 私、和香子って名前なんだよ!」

ノートを渡すだけで終わると思っていた会話が続いていく。相手の立場になって、気持ちを思いやる。まだ完璧にできるわけじゃないけど、少しずつやっていこうと思ってるところだ。


< 124 / 130 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop