紫陽花が泣く頃に
「ねえ、柴田さん」
休み時間。クラスメートの女子に声をかけられた。
「英語のノートの提出がまだなんだけど……」
取って食ったりしないのに、怯えたように聞かれた。私のことをまだ怖いと思っている女子も多いみたいで、気を使われているのがよくわかる。こういう時はどういう接し方をすればいいのか、いまだによくわからない。
「英語、昨日やってたじゃん。もしかして家に忘れてきた?」
会話に割り込んできたのは小暮だった。彼は無意識なのかもしれないけれど、私が困っている時には必ずフォローしてくれる。
「忘れてるわけないじゃん」
私はカバンからノートを取り出した。そして渡す時に「提出するのが遅れちゃってごめんね」と伝えた。
最近になってやっと、ありがとう、ごめんなさいを素直に言えるようになった。
「ううん。大丈夫。ありがとう。柴田さんって和香って名前だよね? 私、和香子って名前なんだよ!」
ノートを渡すだけで終わると思っていた会話が続いていく。相手の立場になって、気持ちを思いやる。まだ完璧にできるわけじゃないけど、少しずつやっていこうと思ってるところだ。