ムーンサルトに 恋をして
再会は駐車場で

四月上旬。
桜が満開に咲き誇る晴れた日、新調したスーツを身に纏って入社式へと向かう。

親友の智子も同じ会社に就職した。
けれど、配属先が違い、入社式は一緒だけれど、翌日から会うことはあまりなさそうだ。

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マーケティング事業部は、常に新企画との闘いと言ってもいいほど、目まぐるしい日々を送る。

最初の半月ほどは新入社員ということもあって大目に見て貰えたが、4月下旬になった頃には連日の残業で疲労感は溜まる一方。
それでも、希望していた職種だということとやりがいを感じて充実した日々を過ごしていた。

1カ月ほど前に大失恋したことも、旅先での一夜限りのアバンチュールもすっかり忘れるほど仕事に没頭して。



「岸野、昨日〆切のアンケート結果の集計が終わり次第、堤部長に」
「はい、分かりました」
「あ、それと、今週の金曜日の19時『及川』で歓迎会だから」
「金曜の19時、及川ですね。分かりました」

主任の菊池一馬(かずま)は5歳年上で、見た目はワイルド系なのに仕事は繊細で、社内でも人気の男性社員。
私の教育係として常に気を配ってくれる先輩で、彼のお陰で仕事が楽しいと思えるほど充実していた。

「岸野さん、悪いんだけど、この会議資料をコピーしておいて貰えるかな?」
「はい。いつまでですか?」
「今日中で大丈夫」
「分かりました」

部長代理の千葉恭子(36歳)さんから資料を受け取る。
彼女は来月から産休に入る予定で、大きなお腹を労わるようにゆっくりとした足取りで自席へと戻る。
そんな千葉さんの穴を埋めるべく、部署全体が急ピッチで私に仕事を仕込んでいるようだ。

「岸野~っ、広報部からデータ貰って来てくれ~」
「はーいっ、了解ですっ!」

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