捨てられた妃 めでたく離縁が成立したので出ていったら、竜国の王太子からの溺愛が待っていました
「え? それはありなの? いえ、そんなことないわね。あの、本当に私はただの庶民になるのよ? だから専属執事なんて大袈裟なことはできないの」
「……承知しました。それでは私をこの場で殺してください」

 そう言ってアレスは胸元から取り出した護身用の短剣を私に差し出す。本来であれば刃物を持つことは許されないが、私が何度か暗殺者に狙われ許可されたものだ。

「どうしてそうなるの!?」

 いきなり殺してくれと言われてもそんなことできないし、そもそもアレスに幸せになってもらいたいだけなのだ。

「私にとってはロザリア様がすべてなんです。お傍にいられないなら生きている意味がありません」

 真剣な表情でアレスは言い放つ。どうやら本気らしい。本気で傍にいなければ生きている意味がないと思っているようだ。どうしてここまで忠誠心を向けられるのかわからない。

「ちょっと待ちなさい。私はただアレスに幸せになってもらいたいだけなのよ?」
「っ! そんな……なんて慈悲深きお言葉……! ですが、それなら簡単でございます」

 もう答えは想像がつくけど、もしかしたら違うかもしれないから聞いてみましょう。

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