捨てられた妃 めでたく離縁が成立したので出ていったら、竜国の王太子からの溺愛が待っていました
「よし、それではファンク男爵を魔道具の開発部門の長として任命する」
「お願いします。それで——」
「それで、ボニータと言ったかしら。懐妊したというのは本当なの?」

 ボニータとの婚約の話をしようと思ったら、今度は母上が彼女を睨みつけている。まったく少しはボニータに優しく接して欲しいものだ。

「はい、先日の医師の診察では現在十週目と言われております。予定日は秋半ば頃です」
「……そう。具体的な予定日はいつなの?」
「ええと、朝霜(あさしも)の月の八日です」
「その日で間違いないのね?」
「はい、間違いございません。よかったら王妃様から王宮医師に確認していただいても問題ありません!」

 感情の読めない母上はここで何か考え込んでだまり込んでしまった。そろそろボニータを解放してやりたいからちょうどよかった。

「では父上。問題も解決したようですし、このままボニータとの婚約を認めていただけませんか?」
「うむ、仕方あるまい。腹に子がいるのなら早い方がいいだろう。書類については後ほど知らせる。王太子妃教育も進めねばならんな」
「ありがとうございます! 無理のないペースでお願いします。ひとりの体ではないのですから」

 大会議室の中は問題の解決とともに穏やかな空気に包まれた。
 ボクは父上や重鎮たちと国民にさえ不人気な王太子妃がいなくなって、むしろ喜ばしいと軽く話してからボニータを連れて大会議室を退室した。

 ただひとり宰相だけが眉間に深いシワを刻み無言だったが、ボニータと婚約できた喜びでその様子にはまったく気がつかなかった。
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