捨てられた妃 めでたく離縁が成立したので出ていったら、竜国の王太子からの溺愛が待っていました
 そうでなければ彼に失礼だ。それだけじゃない。下手すれば深く傷つけて、主従としても一緒にいられなくなる。
 アレスに愛していると言われたから嬉しいのか、他の人から愛していると言われても嬉しいのかわからない。

 だとしたらそんな不誠実なことをしてはいけない。伴侶を愛さないなんて、そんなこと絶対にしたくない。
 アレスにあんな砂を噛むような日々を過ごして欲しくない。

 伸ばしかけた手は力なく膝の上に落ちた。

「ご、ごめんなさい。私わからないの」
「……わからないとは?」
「アレスの気持ちはとても嬉しいけど、アレスを愛してるのかわからないの。だからすぐに返事ができないわ」

 取り繕う言葉なんて浮かんでこなくて、仕方なしに正直に私の心情を打ち明けた。もしこれで呆れられてしまったらそれまでだ。
 その時は最初の予定通りひとりで生きていこう。

「…………何も考えずに手を取ってくださればいいのですが。私がどれだけ我慢してきたかはさておき、お嬢様が誠実で真面目であるのは存じております」

 アレスの言葉にホッと胸をなで下ろす。どうやら呆れられてはいないようだ。でも続いた言葉が衝撃的だった。

< 60 / 239 >

この作品をシェア

pagetop