捨てられた妃 めでたく離縁が成立したので出ていったら、竜国の王太子からの溺愛が待っていました
 その日は国中がお祭り騒ぎだった。
 前日から祭りで賑わう街はおめでたいと誰も彼も浮かれている。

「めでたいことなど、ひとつもない……」

 ポツリと呟いた声は侍従用の控室で誰の耳にも届くことなく、慌ただしさにかき消される。
 曇天に覆われた空はロザリア様の心模様を映したかのようだ。王太子との結婚式は国を挙げてのイベントだ。貼り付けた笑顔に誰もが誤魔化されていた。

 やっぱり俺は選択を間違ったのか?
 今なら、間に合うだろうか。まだ引き返せるだろうか?

 はやる気持ちをおさえて、ロザリア様の控室へと向かう。
 先程ひとりにして欲しいと言われ、部屋を後にしてきたばかりだ。他の男のために着飾った花嫁姿に、かつてない苛立ちを感じていたからあっさりと引き下がった。

 でも、まだ間に合うなら。

「お嬢様。お話があります」
「……アレス? 入って。どうしたの?」

 どうして、誰も気がつかないんだ。こんなに無理して笑顔を貼り付けているのに、どうしてロザリア様が喜んでるなんて勘違いできるんだ?

< 73 / 239 >

この作品をシェア

pagetop