幸せを受け止めて~騎士団長は月夜に淑女をさらう~
「閣下、お呼びでしょうか。」
「お前に閣下と呼ばれると何だかこそばゆいな。」
ラーデマッハー中将は入室した娘にソファに座るように促す。

「クララを呼んだのは、クララの将来の話をするためだ。」
今までそんな話を父からされたことがなかったので、思わず不安がよぎる。
「知っての通り、私は陛下から大将に任命いただいた。陛下を除けば軍のトップに立つことになる。」
「それが何か?」
「クララが私の娘だということは皆が知っているし、今後軍にいても居心地が悪いだろう。ここいらで除隊してはどうかと思っている。実はお前に良い縁談があるんだ。」
そう言ってラーデマッハー中将は額縁に入った一枚の写真を取り出した。
「私の古い友人のファーレンハイト辺境伯のご子息のマルクス殿だ。歳はクララより1つ下だが、先方は構わないとおっしゃっている。」

「これは・・・お母様のご意向なの?」
「いいかい、クララ。母さんは確かに口うるさいところがあるが、お前のためを思って言っているんだ。私も今まではお前のやることを黙って見守っていたが、結婚して女性としての幸せを掴んでほしいと思っている。これは私からのお願いでもあるんだよ。」
ラーデマッハー中将は黙って額縁の写真を眺めるクララの隣に腰かける。
「ファーレンハイト辺境伯領は自然豊かな場所だ。そこではお前の好きな乗馬がいくらでもできる。マルクス殿も乗馬の腕は確かだそうだから、2人で遠乗りに行ったら楽しいんじゃないか。」
「そうね。考えてみるわ。」
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