捨てられた妃 めでたく離縁が成立したので出ていったら、竜国の王太子からの溺愛が待っていました2
「よし、皇帝への挨拶も済んだから、もう好きに動けるな」
「ええ、まずは誰から声をかければいいのか……帝国の貴族でも販路に影響力が強い領地を持つ貴族かしら。でも大商会を経営する貴族も捨てがたいわね」
「ロザリア、その前にやることがあるだろう?」
「え? 私なにか忘れてた?」

 さっと思い返すけれど、心当たりが浮かばない。いったいなにを忘れているのだろう。真剣に考えていると、苦笑いを浮かべたアレスが私の正面に立った。
 エスコートのために添えていた左手は、いつの間にかアレスの右手に捕らわれて、ラピスラズリの指輪に唇を落とされる。

「愛しい妃殿。俺とダンスを踊っていただけますか?」

 こういった夜会やパーティーでは一番最初にパートナーと踊り、誰が誰の相手か周囲に知らしめるものだ。元夫の相手は別にいたから、こういった機会がほとんどなくすっかり失念していた。
 途端に申し訳ない気持ちでいっぱいになり、満面の笑みを浮かべて答える。

「もちろんですわ、愛しい旦那様」 

 アレスが破顔して、周りがどよめいたのは気付かないふりをした。
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