転生公爵令嬢のイチオシ!
そしてレイ様が私の頬から手を離し、何かを決意したような瞳で私を見つめた。

「実はもうひとつ伝えたい大切な話があるんだ。学園祭の時にあとで話をしたいと言っていたことを覚えてる?」

「はい。あとで温室に行こうと言っていた時に」

「この話を聞いたら君に嫌われるかもしれないけど…」

「え?」

私がレイ様を嫌いになる?

「これを」

「あ、拾ってくださってたんですね。ありがとうございました」

レイ様がポケットから出したのはピンクのリボンつきのイッチくんマスコットだった。
ホッとした私の両手の手のひらの上にイッチくんマスコットを置いてくれた。

「私と君は昔に会ったことがあるんだ。遠い昔に」

「昔に?」

「その時から私は君が好きだった」

「え…」

「芽衣ちゃん」

「え、そ、その名前ッ!」

レイ様が知っている筈がない私の名前!!

「私は宮本玲だ。同じ職場で私は和菓子職人だった」

「う、うそ…」

宮本専務!?
レイ様も転生者だったってこと!?

「…宮本玲は覚えているかな?」

不安そうにレイ様が尋ねる。
芽衣の記憶を思い出したなら宮本専務を覚えていない筈はない。

「ほ、本当に宮本専務ですか?」

「本当だよ、信じて。こうやって芽衣ちゃんの手のひらの上に大福を乗せたことがあるよ」

芽衣と呼び、私の手を包み込んで伝えてくれる。

「私達イチオシ堂の和菓子職人が作った大福をとても美味しいと言ってくれたよね。大切に手のひらの上に乗せてくれてた君を忘れたことはない」

「宮本専務だ…」

「どんなに『君』に逢いたかったか!『君』と再会した時の喜びがどれ程だったか!!」

切なそうなあの濃い紫色の綺麗な瞳が私を見つめる。

「やっと『君』に逢えた……時を越えても」

こんなことが本当にあるの?
じわりと心の底から熱い想いが込み上げてくる。

「伝えられなかった想いもやっと告げられる。あの頃から『君』が好きだよ。芽衣ちゃんもメリアーナも、どんな君でも!!」

「……!!」

「長い時を経て姿が変わろうとも、魂が君しかいらないと言っているんだ」

芽衣とメリアーナの気持ちが溢れてもう胸が苦しい!
涙が次々と流れる。

「私が宮本玲だと伝えたら嫌われてしまうかとも思った。レイのことは好きになってもらえたとしても」

「…どうしてですか?」

「名前は同じレイでも、姿も年齢も違う。もしかしたら宮本玲が芽衣ちゃんに嫌われていたかもしれない」

「そんな!宮本専務のことはとても尊敬していましたし、芽衣の中から宮本専務を忘れるなんてありえません!」

「芽衣ちゃん…」

ホッとしたような顔をした。

「それに芽衣も宮本専務のことが好きでした…。私がレイ様を嫌いになる筈もありません」

芽衣の想いがこの世界であなたに届いた!
あなたに芽衣とメリアーナのふたり分の想いを伝えたい!!

「どんな『レイ』様でも大好きです!わたしの『イチオシ』です!」

「ありがとう。私もだよ。この奇跡のような出逢いに感謝しかない」

レイ様の綺麗な瞳から涙が流れた。

「愛してる」

長い時を越えた想いがやっと届く。
こんな素晴らしいことはない。

「もう離さない」

強く、強く今までの時間を取り戻すようにふたりで抱きしめ合った。


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