彼女の夫 【番外編】あり
何分そうしていただろうか。
俺の背後で、ガチャッとドアの開く音がする。

「服部さんですね。いま先生が来ますので」

看護師が、蛇口の水を止めながら俺に声をかけた。


「すみません、お待たせしました。えぇと、服部 玲生(れお)さんですね・・。医師の早坂(はやさか)です。火傷、痛みはありますか?」


そう言いながら処置室に入って来たのは。


「・・嘘だろ・・・・」


「えっ?」

「あ、いえ・・すみません。痛み・・は、ヒリヒリする感じで」


こんなことって、本当にあるのか?


俺の左手にそっと触れて診察している女性医師は、電車で俺を助けてくれた人によく似ている。

思わず顔をじっと見た。
ネームプレートを確認すると、『医師 早坂 蒼』と書いてある。

はやさか・・、名前は何と読むんだろうか。

「あの・・服部さん。そんなに見られると、何だかやりづらいんですけど」

「あ・・すみません。知ってる人に似てるなと思って・・つい」

俺の手に軟膏を塗りながら、その人はクスクスと笑っている。

あ・・れ? 俺に気づいていない?
ということは・・他人のそら似か?


「あの・・先生、私に見覚えないですか?」

「え? ふふっ、ナンパですか?」

「いや、そんなんじゃなく、本当に・・」

「服部さんみたいなイケメン、会っていたら忘れないと思いますよ。はい、終わりです。明日の朝までは少し痛むかもしれませんが・・今夜は奥さまに薬を塗ってもらってくださいね」

え・・。奥さま?


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