モノクロに君が咲く

 ほんの刹那の出来事。だけれど、永遠にも感じられる時間。キスされたのだと頭が理解した瞬間、全身が沸騰したのかと錯覚を覚えるほど熱くなった。

「せ、せん、せんぱ……っ」

「しょうがないから、これで妥協してあげる」

 ユイ先輩の細くひんやりとした手が、ふわりと私の髪を梳く。

 そのままぱっと踵を返した先輩は、病室の扉に手をかけながらちらりと振り返る。

「……答えが出るかはさておき、ちゃんと考えるよ。それが鈴の望みならね」

「っ、は、はい」

「じゃあまた、一ヶ月後。約束ね」

 そう言い残して、ユイ先輩は病室を出ていった。今のはもしかして先輩なりの意趣返しだとか、しばらく離れるゆえの充電だとか、そういう──。

 ばくばくと明らかに異常な音を叩き出す心臓。思わぬところで「私、意外と平気なんじゃ」なんて妙な希望じみたことを思うけれど、もちろんそんなわけもない。

「……ほんと、ユイ先輩はずるい人です」

 自分で言い出したくせに、すでに寂しい。

 ユイ先輩と離れて過ごすこれからの一ヶ月を思うと、ひどくすっからかんになったような虚しさを感じて、私は目尻に浮かんだ涙をそっと拭った。

 一ヶ月。大丈夫だ。たったの三十日。

 きっとまだ、この世界に生きていられる。

 この間に、完成させなければならない。

 私が生きてきた人生のすべてを捧げて──この一枚の絵を。

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