モノクロに君が咲く

 まるで全身を雷で貫かれたような衝撃だった。あまりに茫然として、いつにも増して不愛想で素っ気ない態度になってしまったような気がする。

 木を離れた桜の花弁が嵐のように吹き荒ぶなか、俺はすぐさま後悔した。

 けれど彼女は、そんな俺の態度にも微動だにせず、むしろおかしそうに笑った。

「ふふ、ですよね。はじめまして、先輩。小鳥遊鈴です」

 たかなしすず。

 その名前がなんとも反響して、頭の隅々まで広がっていった。人を見て、直感的に描いてみたいと思ったのは、たぶん十八年の人生ではじめてのことだった。

「今日はこれを渡しにきました」

「……? 入部届?」

「はい。先輩が美術部の部長って聞いたので、どうしても直接渡したくて」

 拍子抜けした、とでも言えばいいだろうか。

 渡された紙には、たしかに『一年・小鳥遊鈴』と丁寧に記されていた。

 そういえば三年生が卒業してから部長を任されていたな、と今さらながら思い出す。

「……なるほど。わかった、受け取っておく。顧問に渡せばいいんだよね」

「はい、お願いします」

「じゃあ……」

「ところで、活動場所はここですか?」

 被せるように追従された質問。一瞬、思考が追いつかなかった。

 なにせ美術部の部員がはたして今何名いるのかすら、俺は把握していない。

 だが、少なくとも俺以外にまともに活動している生徒を、ここ二年見たことはなかった。うちは基本的に放任主義だし、個人創作に重きを置いているから。

 まあ、がちがちな運動部でもあるまいし、高校の部活なんてそんなものだろう。
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