モノクロに君が咲く
──けれども、はたしてそれは、人形の俺に理解できることなのか。
「俺は……変わらないといけないの」
「さあね。でも、変わらないときっとあの子には近づけないわ」
意味深にそうつぶやいて、榊原さんはゆっくりと俺の胸ぐらを解放した。
「正式にフラれたからには、あたしは小鳥遊さんを応援する。女々しく結生のことを想い続けたりはしないから、安心してちょうだい」
「っ……」
「大事にしてあげて。彼女を幸せにできるのは、あなたしかいないんだから」
消え入りそうな声でそう言い落とし、榊原さんはふたたび歩いていく。
そのうしろ姿を見送りながら、俺は茫然とその場に立ち尽くした。
なんて強い子だろう。
そう思いながら、次に顔を合わせたときにかける言葉を見つけられない。
俺がもし榊原さんの立場になったら、同じことを小鳥遊さんに言えるのだろうか。
今でさえ右往左往して、迷ってばかりなのに。
「……どうして、そんなに悲しそうなの」
彼女の声音に含まれた憂いは、フラれたことによるものではない気がした。
引き留めて尋ねたくても、喉の奥に引っかかって声が出てこない。
だって、今のはきっと俺と小鳥遊さんへ向けられたものだ。
俺しかいないってなんだ。
俺なんかじゃ、むしろ心配になるのではないのか。
わけがわからない、と俺は俯きながらぎゅっと拳を握りしめた。