ぜんぶあおかった


小学校のころ、よく彼女がくれた手紙。封筒はともかく、びんせんまで目が覚めるような鮮やかな青。ボールペンの字までもが紺色に近い青である。子供心に「ちょっとこれはどうなの」と思ったことを覚えている。
彼女といちばん仲が良かったわたしでさえもそう思ったのだから、周りはもっと変だと思っただろう。実際、わたし宛の彼女の手紙をクラス中の連中が見たその日から、彼女のあだ名は「あお」になった。まあ、彼女はとても喜んでいたのだが。
わたしも彼女のあだ名は気に入っていた。およそ彼女を気に入らなかったであろう、クラスの者たちが嫌がらせのために付けたあだ名だとは分かっていたが、それは美しい彼女にぴったりだった。彼女はひどくそのあだ名を好み、SNSのユーザー名にさえ起用した。
わたしはあんなにも青が似合う綺麗な人間は、彼女以外に見たことがない。だからわたしは彼女となかよしであることが誇りだった。何も持っていないわたしが唯一自慢することの出来るブランド品だった。わたしの妄想でもなんでもなく、確かにわたしたちは心友だった。わたしは彼女とずっと一緒にいることが当たり前だし、彼女もわたしと同じように思ってくれていると胸を張れて言えたのはいつまでだったか。
今、わたしは駅に近いことだけが利点である安いボロアパートにひとりで住んでいる。たったひとり。なにもやる事がないので日記をつけてみようと思って書いているが、読み返してみると彼女の事ばかり。やはりわたしは彼女の亡霊から逃れられていないらしい。もう書くのは辞めにしてしまおうか。
____いや、もう少しだけ頑張ってみよう。彼女がなぜ命を絶ってしまったのかも、わたしがこんな所まで堕ちてしまった理由も、書いていれば分かるかもしれないのだから。



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