夢幻の飛鳥2~うつし世の結びつき~
謎の事件
 久々に小墾田宮(おわりだのみや)にも喜ばしい知らせが入ってきた。それは厩戸皇子(うまやどのみこ)が以前からが建立を発願していた、斑鳩寺(いかるがでら)がことたび無事に完成したとのこと。

 この寺院は、元々厩戸皇子の父親にあたる橘豊日大王(たちばなのとよひのおおきみ)が、自らの病気平癒のために建立を発願した。だが大王がほどなくして亡くなってしまったため、それを皇子の彼が引き継ぐことにしたのだ。

(厩戸皇子、ついに完成されたんですね)

 稚沙自身もこの寺院の建立の話は聞いていたので、それがやっと完成したと知り、我がごとのように喜んでいた。

「よし!次に厩戸皇子にあったら、ぜひとも祝いの言葉をお伝えしなくっちゃ!!」

 それから彼女はふと回れ右をして、自身の仕事場へと軽い足取りで向かっていきだした。今までは休憩中だったが、もうそろそろ仕事場へ戻らないといけない時間になっている。

 そして彼女が1人黙々と歩いていた時のこと。突然に「おーい、稚沙ー!」と誰かが声をかけてきた。

(一体誰だろう?)

 彼女は思わずその声の主の方に顔を向ける。するとそこに1人の青年が立っており、相手は蘇我馬子(そがのうまこ)の息子の蝦夷(えみし)だった。

「あ、蝦夷!久しぶり!!」

 彼とは最近会って話をすることがなく、わりと久しぶりな感じがした。本人も小墾田宮にはちょくちょくきているのだろうが、彼女の前にはどういうわけか全く姿を見せないでいた。

 そんな蝦夷はゆっくりとした歩きで稚沙の元にやってくる。彼は相変わらず、背も高くがっちりとした体格をしている。
 また彼の場合、普段はどちらかというと崩した服装をしている印象があるのだが、今日はわりと立派そうな服装をしている。

「それは俺が小墾田宮にきても、稚沙がいつも仕事に追われて忙しいそうだったから、何となく悪い気がしたんだよ」

「えぇ?そうだったの。それはごめんなさい」

「それに椋毘登(くらひと)の目もあるから、なかなか難しい所もあって。まぁ、俺なりに色々と気を遣ってるわけ」

 蝦夷は少し拗ねた感じで稚沙にそう話す。今の彼にとっての彼女は、自身の従兄弟の相手の女性っていう扱いなのだろう。

「まぁ、椋毘登は変なところで気にするから...」

「本当にあいつは、何で自分の女にはこうも神経質なんだろうな」

 それをいわれると稚沙も中々言葉に困ってしまう。確かに椋毘登がちょっと心配性なのは確かなのだが。

「蝦夷だって今は相手の女性が既にいるわけなんだから、そこら辺は多めに見てもらいたい。確か物部の人なんだっけ?」

 ちょうどこの頃蝦夷の周りの人達は、彼と物部一族の鎌姫(かまひめ)という娘の婚姻を考えていた。また蝦夷本人もどうやらまんじゃらでもないようで、何とも良い兆しが見えている。

「まだ正式に決まったわけではないんだがな。それと稚沙も知ってるとは思うが、過去に物部守屋(もののべのもりや)が倒された時に、何も全ての物部一族全てが処分された訳じゃないからさ」

「そうよね。葛城の人達だって今も大和の皇族に仕えてるわけだし。まあ、あくまで一部の人達が倒されたってことよね?」
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