夢幻の飛鳥2~うつし世の結びつき~
事件の犯人
こうして稚沙は、椋毘登と一緒に斑鳩寺にいずれ現れるであろう、犯人を待ち構えることにした。
だがこの頃は天気も崩れやすく、今日もあいにくの曇り空である。なので一度雨が降り出すと少々やっかいだ。
「ねぇ、椋毘登、中々犯人現れないね」
「一度はそれらしき人物が現れているんだ。とりあえず今は、このまま暫く待つほかないだろ」
「そ、そうね......」
二人が隠れている金堂の辺りはひっそりと静まり返っており、遠くの草木の方から虫の声が微かに聞こえてきていた。
そして木造のほんのりと漂ってくる檜の匂いが、ふと2人の鼻をかすめる。
(何か静かだな〜)
「日中は人の目もあるし、夜は逆に動きずらいから、日が落ちるこの直前が1番狙いやすい頃合いだ」
椋毘登はいつ犯人が現れるかもしれないからと、ずっと周りに意識を巡らせている。
一方の稚沙はずっと身を潜めていたので、だんだんと退屈になってきた。なので椋毘登の背中に体を預けては、辺りの景色をただぼんやりと眺めている。
(あ、そうだ。せっかく今2人きり出し、ちょっと聞いてみようかな)
「そういえば、前に椋毘登がいっていた例の夢の件、その後はどうなったの?」
「あぁ、そのことか。その後一度夢に出てきたよ。それであるお願い事をされた......」
「え、椋毘登。それどういうこと!!」
この話は稚沙にとっては初耳だったので、彼女は慌てて振り返り、自分たちが金堂にいるにもかかわらず、思わず声を上げた。
「おい、稚沙、大きな声をだすな!」
「あ、ごめんない」
「まぁ、内緒にしてたのは悪い。お前に変な心配をかけたくなかったんだ」
だが稚沙は椋毘登の背中からさらに身を乗り出し、真相を聞こうとして、彼の肩を掴んで自分の方に向けさせた。
椋毘登も一瞬ためらいをするものの、稚沙のひどく心配そうな表情を見た為か、このまま隠しておくのは難しいと感じた。
「稚沙、実はな......」
だがちょうどその時である。急にどこからか数名の人たちの足音が聞こえてきた。しかもどことなく周りを警戒したような足取りである。
「どうやら、ついに犯人が動いたようだ」
椋毘登は急に表情を厳しくさせて、そのままさっと稚沙の手を握ってくる。
「この話はとりあえずあとだ。今から奴らを追うが、もし危なくなればそのまま俺の指示通りに逃げること、良いな」
「うん、分かった」
稚沙は大きくこくんと頷いてみせる。
これも何日も前から、この辺りを見張っていた甲斐があったというものだ。この機会を絶対に見逃す訳にはいかない。
それから2人はその犯人らしき人達の後を追って、少し早歩きをしながら、移動を開始する。
相手の者達の足音からして、どうやら彼らは仏像が置かれた堂に向かっている様子だ。
そして2人が金堂に向かっている丁度その時、彼らの前に急に1人の青年が現れた。それはあの中臣御食子だった。
「あなたはこの間、小墾田宮で会った中臣の人?」
「え、稚沙の知り合いか?それに中臣って」
すると御食子はさらに歩み寄ってきて、稚沙と椋毘登に挨拶をする。2人とさほど歳の変わらなそうな彼だが、何とも落ち着いた様子み見せている。
「僕の名前は中臣御食子。中臣可多能祜の息子です」
「ふん、中臣氏の者か。俺は蘇我小祚の息子で椋毘登」
「へぇーそうでしたか。あなたは蘇我の方なんですね」
だがこの頃は天気も崩れやすく、今日もあいにくの曇り空である。なので一度雨が降り出すと少々やっかいだ。
「ねぇ、椋毘登、中々犯人現れないね」
「一度はそれらしき人物が現れているんだ。とりあえず今は、このまま暫く待つほかないだろ」
「そ、そうね......」
二人が隠れている金堂の辺りはひっそりと静まり返っており、遠くの草木の方から虫の声が微かに聞こえてきていた。
そして木造のほんのりと漂ってくる檜の匂いが、ふと2人の鼻をかすめる。
(何か静かだな〜)
「日中は人の目もあるし、夜は逆に動きずらいから、日が落ちるこの直前が1番狙いやすい頃合いだ」
椋毘登はいつ犯人が現れるかもしれないからと、ずっと周りに意識を巡らせている。
一方の稚沙はずっと身を潜めていたので、だんだんと退屈になってきた。なので椋毘登の背中に体を預けては、辺りの景色をただぼんやりと眺めている。
(あ、そうだ。せっかく今2人きり出し、ちょっと聞いてみようかな)
「そういえば、前に椋毘登がいっていた例の夢の件、その後はどうなったの?」
「あぁ、そのことか。その後一度夢に出てきたよ。それであるお願い事をされた......」
「え、椋毘登。それどういうこと!!」
この話は稚沙にとっては初耳だったので、彼女は慌てて振り返り、自分たちが金堂にいるにもかかわらず、思わず声を上げた。
「おい、稚沙、大きな声をだすな!」
「あ、ごめんない」
「まぁ、内緒にしてたのは悪い。お前に変な心配をかけたくなかったんだ」
だが稚沙は椋毘登の背中からさらに身を乗り出し、真相を聞こうとして、彼の肩を掴んで自分の方に向けさせた。
椋毘登も一瞬ためらいをするものの、稚沙のひどく心配そうな表情を見た為か、このまま隠しておくのは難しいと感じた。
「稚沙、実はな......」
だがちょうどその時である。急にどこからか数名の人たちの足音が聞こえてきた。しかもどことなく周りを警戒したような足取りである。
「どうやら、ついに犯人が動いたようだ」
椋毘登は急に表情を厳しくさせて、そのままさっと稚沙の手を握ってくる。
「この話はとりあえずあとだ。今から奴らを追うが、もし危なくなればそのまま俺の指示通りに逃げること、良いな」
「うん、分かった」
稚沙は大きくこくんと頷いてみせる。
これも何日も前から、この辺りを見張っていた甲斐があったというものだ。この機会を絶対に見逃す訳にはいかない。
それから2人はその犯人らしき人達の後を追って、少し早歩きをしながら、移動を開始する。
相手の者達の足音からして、どうやら彼らは仏像が置かれた堂に向かっている様子だ。
そして2人が金堂に向かっている丁度その時、彼らの前に急に1人の青年が現れた。それはあの中臣御食子だった。
「あなたはこの間、小墾田宮で会った中臣の人?」
「え、稚沙の知り合いか?それに中臣って」
すると御食子はさらに歩み寄ってきて、稚沙と椋毘登に挨拶をする。2人とさほど歳の変わらなそうな彼だが、何とも落ち着いた様子み見せている。
「僕の名前は中臣御食子。中臣可多能祜の息子です」
「ふん、中臣氏の者か。俺は蘇我小祚の息子で椋毘登」
「へぇーそうでしたか。あなたは蘇我の方なんですね」