夢幻の飛鳥2~うつし世の結びつき~
 そして稚沙は、そんな2人の男女の光景を目にし、直感で理解する。以前にも同じようなことがあった気がすると。

「あの女の子は、過去の私なんだ......」

「な、何だって!」

 それから雄朝津間皇子は、相手の少女に『少し待っていて』と目で合図をしてから、今度は稚沙と椋毘登に目を向けていった。

「君は稚沙が危ない目に遭いそうになって、とっさに彼女を守りに向かっただろ?あのまま君が助けに行かなかったら、彼女はそのまま死んでいたんだ」

「じゃあ皇子は、私を助ける為に椋毘登の夢に出てきていたんですか?」

「そうだよ。彼女とまた同じ時代に、巡り会うために生まれてきたんだ。だからそれだけはどうしても防ぎたかったのさ」

(つまり私は、危うく死んでしまう所だったの)

 稚沙は余りの事実にとても驚き、思わず椋毘登の腕を掴んだ。彼が助けてくれなかったら、そのまま本当に死んでしまっていたのだ。

 雄朝津間皇子はそういってから、側にいる妃に再度目を向けて続けて話す。

「前世では俺の方が先に死ぬ運命だった。それで死ぬ直前に願ったのさ。この後のどんな時代で、どんな姿形でも構わない。もう一度彼女と巡り会いたいってね」

(やはり人って、生まれ変わりしても、また縁で巡り会うものなのね)

 稚沙がそんなことを思っていると、急に雄朝津間皇子が「あ、そろそろ時間か」といって、ふと妃に何やらコソコソと話しをする。

(うん?何を話しているんだろう??)

「じゃあ俺たち、そろそろ行かないと」

 それから少女は稚沙達に振り向き、そして彼らに満面の笑顔でいった。

「2人とも、本当にありがとう」

(あれが前世の私なんだ......本当に不思議な感じ) 

 稚沙はそんな彼女の姿を見て思う。
 姿や形は確かに今とは異なっているが、やはり同じ魂なのだろう。何となく親しみが湧いてくるようだった。

 そして稚沙はふと隣にいる椋毘登に目を向ける。すると椋毘登の方は、何故だかすっかり体を硬直させ、そしてじっと前を見つめている。

(椋毘登、なぜか前世の私の方をやたら見てない?)

「じゃあ、俺たちはそろそろ行くとするよ。2人とも本当に世話になったね。君たちもこの夢から覚めたら、もとの場所に戻ってるから安心して」

「ちょっと待って下さい、雄朝津間皇子。まだあなた方に色々と聞きたいことが......」

 だがそんな椋毘登の叫びも虚しく、2人の姿はあっという間に消えていった。

 そして次第に稚沙と椋毘登の意識も曖昧になっていき、そのまま2人は夢から目覚めることとなった。
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