ひとりでママになると決めたのに、一途な外交官の極上愛には敵わない
プロローグ

『さやか、愛してる』

 熱く湿った声が耳をくすぐった次の瞬間、私は息を詰めた。
 痛い、というよりも熱い。
 初めての感覚に呼吸も忘れ、目をぎゅっとつむる。

『怖がらないで。目を開けて、俺を見て』

 吐息交じりにささやかれた声にうながされ、まぶたを持ち上げたら、すぐ目の前に端正な顔があった。

 ついさっきまで軽く後ろに流されていた前髪は、今はしっとりと濡れて額にかかる。男らしい眉は寄せられ、二重まぶたに縁どられた大きな瞳には隠し切れない劣情がたたえられていた。

 圧倒的な色香にくぎ付けになった次の瞬間、唇を塞がれた。

『んっ……ふぁっ』

 舌を絡めとられて、吸われ、軽く歯を立てられる。
 まるで食べられているかのような深い口づけに、すぐに息が上がった。

 キスにこんな獰猛なものがあったなんて……。

 付き合って半年になるが、これまで交わしたことのある口づけは穏やかなものばかりで、彼はいつも紳士的だった。

 そう、いつも。
 七歳上の彼が大人の余裕を崩すところを見たことがなかった。

 そんな彼に、私の誕生日を一緒に迎えたいと言われた。
 それがどういうことなのか、わからないほど子どもじゃない。

 低い声で名前を呼ばれるのが好き。甘い瞳に見つめられるのも。
 誕生日の朝、目が覚めたときに隣に彼がいてくれたら、どんなに素敵だろう。
 彼になら身も心もゆだねられる。ううん、彼以外に考えられない。

 返事はひとつしかなかった。
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