変 態 ― metamorphose ―【完】
ちゃちな扇風機だけの密室。
唇を重ねるたびに真昼の重たい空気はさらに重たくなって、濃度を増す。
あたしはその圧に身を任せる。

エアコンの壊れた(つづり)のアパートは、今日も蒸籠(せいろ)のごとく蒸し暑い。

だけど、綴となら蒸されてふやふやになって、べちゃべちゃになっても構わない。
むしろそうなれたらと思うけれど、残念ながら綴もあたしも人間だから、どんなにべちゃべちゃになってもひとつにはなれない。

だからせめてもと、今日もベッドでひとつになりたがる。

ひとつになるための擬似行為。

何世紀を越えようと、人間がやってることって基本は同じなんだな。
そう考えると、原始人にすらもちょっとした親近感を抱いてしまう。

「どうだった? あの人との二回目の食事は」

綴の吐き出した細い煙がキャミソールの肩紐に触れた。

し終わったばかりで、その話題はないんじゃない?
あたしは綴の白い腹に、ぎゅっと爪を立てた。

「ちょっ、だめろっ。煙草落とすだろっ」

「だめろ?」

「ダメとやめろが混ざった」

そっかそっか。
わかった顔をして、あたしはまた爪を立てた。

だめろってば、とうれしそうに身を捩る綴の腰は、とても不健康に影を帯びて、とてもあたし好みだ。
< 11 / 286 >

この作品をシェア

pagetop