変 態 ― metamorphose ―【完】
あたしが勝手に綴は忙しいから無理だ、と判断してよかっただろうか。
綴に確認したわけでもないのに。

相手がチカくんじゃなくて他の人だったら、あたしはちゃんと綴に声をかけたんじゃないだろうか。

自分がひどく自己中心的な振る舞いをしている気がした。
エアコンの冷気が全身をさーっと冷やしていく。

「気にしないで。ちょっと思いついて言ってみただけだから。忙しいなら仕方ないよ」

チカくんはお茶を置いて困ったように微笑んだ。
笑顔のすぐ下のネクタイの結び目はやっぱり不出来で、あたしの喉元はきゅっと締め上げられるような錯覚を抱いた。

「でも、いちおう……。いちおう言ってみる、綴に」

誤作動は心臓だけに留まらず、口は勝手に動いていた。

「ありがとう、いち花」


チカくんの笑顔はやさしい棘のようにふつりと胸に刺さり、あたしはその夜、うまく寝つけなかった。
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