変 態 ― metamorphose ―【完】
庭でラズベリーを育てる。
それが子どもの頃からの夢だったのよね、とあっちゃんは殺風景なチカくんの庭を眺めながら言った。

夏の名残のある芝生はまだ色濃く、チカくんが不器用なのか、ところどころ長さが不揃いだ。
ぴょこんと飛び出た芝生は秋風に撫でられ、そよそよと揺れる。

「チカ、せっかく庭がこんなに広いのになにか育てようとか思わないの? もったいなくない?」

「そういうのは苦手で」

チカくんは苦笑する。

「まあ、たしかにチカに土いじりするイメージはないわね。虫とか苦手だったし」

四十九日の法要ぶりに、チカくんとあっちゃんで集まった。
チカくんの家がモデルルームみたいだったと言ったら、あっちゃんがチカくんの家に興味をもったのだ。

綴くんもよかったら誘って、とチカくんは言ってくれたけど、相変わらず綴は忙しい。

三日前に会ったときには、ずいぶんとげっそりしていた。
おかずをタッパーに詰めていったあたしに、母性本能とか言うのかと思ったら、まったくふざけたりせず、ただ静かにありがとうと言った。
まったく綴らしくない。
それだけ追い詰められているのだろう。
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