変 態 ― metamorphose ―【完】
家に着いて電気を点けると同時に、スマホが鳴った。
バイトですっかりカサカサになってしまった指先でスワイプしてもスマホは反応せず、五度目のスワイプでやっと反応した。


『圭くんから聞いちゃった! すごいね、綴さん。
あのバンドに入れるなんて大出世だよ~。
これからは海外も回ったりするんだね。
いち花、パスポート持ってる?』


かえちゃんからの絵文字とスタンプいっぱいのお祝いメッセージは、きらきらと輝いていた。
あたしにはあまりにも眩しくて、スマホをソファーに放り投げた。


脱衣所の明かりだけを点けて、バスルームでシャワーを浴びる。
摺りガラスのドア越しに脱衣所の淡いひかりを感じるくらいが、いまはちょうどいい。

明るいところにいたくない。
明るいところにいたら、頭が冴えて考えたくないことばかりを考えてしまう。

できる限りのことをして、思考回路を塞ぐ。

それでも想像は回路を飛び越えてやってきて、不安で窒息しそうになる。
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