復讐の螺旋

第二十三話 母の死因

 どうして自分の家族は次々と死んでいくのだろうか、前世でよっぽど酷い行いでもしてきたのかも知れない。そうとでも考えなければ納得が出来なかった。
 明の葬儀が終わってから二週間経っても何もやる気が起きなかった、明を殺した伊東は警察に捕まってしまいもう手を出すことが出来ない。

 蓮は写真立てに写る三人の遺影を見ながら自分が何をするべきか考えていた。結局、明の復讐を止めることはできなかった。なにが突然、明を突き動かしたのかは分からなかったが、これで自分の想い、明には生きて幸せになってほしいという願いは叶えることができない。

「取り敢えず蒲田を殺すか……」
 蒲田を殺して刑務所に入ればちょうど伊東と同じくらいの時期に刑期を終えて出所出来るのではないか、そしたら伊東を殺して再び刑務所に戻る。
 結局、諸悪の根源であるコイツラを殺さなければ何も解決しないような気がした。

 葵と明を殺したコイツラを殺さなければ――。
 そう思った所で一つ疑問が湧いた。
 
 母さんはなんで死んだのだろうか――。
 
 蓮が五歳の時に亡くなったので詳しい死因など誰も教えてくれなかったし聞いても分からなかっただろう、ただ年齢を重ねるに連れおそらく病気かなんかで死んだのだろうと勝手に思い込んでいた。

 一度気になると母親の死因が何なのか知りたくなってきた、しかし十三年も前の事を調べることなんて出来るのだろうか。
 蓮はスマートフォンを取り出すと『死因 調べ方』で検索をかけた。

 死亡届(死亡証明書)に記載してあると検索上位のウェブサイトには書かれている、さらに死亡証明書を取得できるのは、死亡届の届出人や死亡者の親族などの利害関係人かつ特別な理由がある人と定められていて死後一年以上経っている場合は管轄の法務局に保存、管理されているらしい。
 死亡者の親族である自分ならば問題ないだろうと思ったが、注意書きに簡易生命保険の払い出し、遺族厚生・共済年金の手続きの為など特定の理由がない場合には発行出来ません。と書いてあったので再発行するのは諦めた、それ程手間をかけてまで知りたいとは思わない。

 仕方なく明の遺品でも整理することにした、大した荷物ではないが1Kの蓮の部屋に置いておくには少々邪魔だ、ダンボールを開けると洋服の下から書類関係が色々と出てくる。

 保険関連の書類が殆どだがその中に『死亡診断書(死体検案書)』と書かれた紙が複数枚出てきた、名前を見ると一之瀬咲と記載されている、再発行しようとして諦めたがどうやら明がコピーを何枚か取っていたようだ。

 氏名、生年月日、住所、死亡した時間、死亡した場所など思いのほか細かく記載してある、そして死因の項目で蓮は固まった。

『死因 他殺』

 他殺という事は誰かに殺されたのだろう、せめて病死でいて欲しかった、自分の大切な家族が三人とも誰かに殺されていると言う事実に蓮はショックを受けた。

 同時に一体誰が、そんな疑問が頭の隅に芽生える。普通に生活していて他人に殺されるというのはそんなに良くある事とは思えない、それとも自分の母親は誰かに恨まれるような人間だったのか。

 死亡診断書には死亡した日時と日付が記載してある、この日の新聞を見ればどうして殺されたのか詳細がわかるのではないか。

 蓮はさっそくスマートフォンを操作して過去の新聞記事の閲覧方法を検索した、便利な世の中になったものでわざわざ図書館に行かなくても民間の業者に日付を指定すればその日の記事をウェブ上で閲覧できるサービスを展開している会社が幾つかあった、一紙で一九八〇円と多少値段が張るが迷わず会員登録を済ませると母親の死亡日時の朝刊を取り寄せた。

 スマートフォンでは見にくいのでパソコンを鞄から取り出してローテーブルに置くと先程のウェブサイトにアクセスして新聞記事を読み始めた。
 蓮は目を細めながらパソコンに映る新聞記事を読み進めていくが該当する記事は最後まで見当たらなかった、再び死亡診断書に目を通して自分の間抜けさに気がつく。

 死亡時刻は九月五日の十七時二十五分、この日の朝刊に夕方起きた事件が掲載されている訳がない。無駄金を散布してしまった事に後悔しながら翌日の朝刊を再び購入する、すると目当ての記事はすぐに見つかった。

『五日午後四時二十分頃、東京都豊島区東長崎三丁目にあるアパート翡翠荘で一之瀬咲さん(三三) が胸を刺されて死亡しているのが通報により駆けつけた警察官により発見、その場にいて通報したとみられる高校生の供述により自分の父親である蒲田総一朗の犯行であると――』

 その名前を見つけた瞬間に蓮の心臓は鼓動を速めた、記事によれば犯人と思われる蒲田総一朗は今だ居場所が特定出来ない状況で警察が行方を追っているという。

「蒲田……」

 蓮は静かに呟くと画面に映る蒲田総一朗の文字をじっと見つめていた、これ以上深追いしない方が良い、なぜか心の中で警鐘が鳴っている。 

 蓮は自分の中で大きくなる警告音を無視すると次の日の朝刊をクリックして購入する、その日の朝刊には当該事件の進捗が掲載されていない、犯人は逃げ続けているのだろうか。

 次の日、またその次の日と朝刊を購入していき蒲田総一朗の名前を追った、そして事件から五日後の新聞記事に再びその名前を発見することが出来た。

 新聞には容疑者の蒲田総一朗が知り合いの女の家に潜伏している所を捜査員に確保された事、当該事件に置いて自分の容疑を認める発言をほのめかしている事が掲載されていた、新聞記事には文字情報の他にも容疑者の写真が丸く囲われた中に収まっている。

 蓮はその写真を見て愕然とした、蒲田総一朗容疑者と書かれた上に掲載されている写真の男は三十六歳という年齢の割に若々しく女性ウケしそうな顔立ちだった。
 
 そして何よりも(じぶん)に似ていた――。
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