政略結婚は純愛のように〜子育て編〜
その3 不安
「おー! 笑った、笑った、ご機嫌さんだ」
 
沙羅を抱いた隆信が、嬉しそうに声をあげる。
 
隣で、彼の身の回りの世話をしているヘルパーの佐藤が顔を綻ばせた。

「まぁ、ほんと! ふふふ、こんなに可愛らしい赤ちゃんははじめて見ましたよ。笑うと口元が加賀さんそっくりじゃないです?」

「やっぱりそう思うか? 息子に似てると秋元さんは言うんだが、どちらかというと俺だよな」
 
その様子に由梨は秋元と目を合わせてくすりと笑った。
 
隆之が深刻な表情で携帯を見ていたあの日から二日が経った今日、由梨は再び隆信のところを訪れた。
 
隆信に抱かれることにすっかり慣れた沙羅は、手と足をバタバタさせてご機嫌だ。
 
表情がしっかりしてきてよく笑う。隆信の腕をキックして、「あー!」と可愛い声をあげた。

「ははは、ご機嫌だ。佐藤さん、動画を撮ってくれ」

「はいはい、ただいま。ふふふ、ほんっとうに可愛らしい! 絶対に、ママみたいな美人さんになりますね、加賀さん」

「ああ、間違いない」
 
ソファに座り、お茶を飲みながら見守っている由梨と秋元そっちのけでふたりは盛り上がる。

どうやら人は赤ちゃんを見ると、両親のどちらに似ているかとか、将来どうなりそうだとか話したくなるようだ。
 
ここへ来ると大抵ふたりは同じような話をしてる。それでもまったく飽きないで楽しそうなのがおかしかった。

「由梨さんに似た美人さんになったら年頃には、ぼっちゃまは気が気じゃなくなるんじゃないかしら? あちらこちらから縁談が来るだろうし」
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