政略結婚は純愛のように〜子育て編〜
その4 理由
その日の夜、隆之が帰ってきた時はすでに沙羅は眠っていた。

昼間に外出した日は、隆信に抱っこしてもらってはしゃぐからだろうか、たいてい夜の寝つきがいい。

「おかえりなさい」
 
リビングで由梨が隆之を出迎えると、彼はいつものように由梨を抱きしめた。

「ただいま、由梨」

「お疲れさまです。隆之さん」

「由梨も、お疲れ」
 
そして顎に手が添えられる。
 
由梨の胸は高鳴るが、彼の唇が下りてきたのはいつものように唇ではなく……頬だった。しかも由梨を包む彼の腕はすぐに解かれてしまう。

彼は、ダイニングテーブルにあらかじめ用意してあった夕食に視線を送った。

「夜ご飯ありがとう。由梨はお風呂に入っておいで」
 
いつもの彼の気遣いに、由梨の胸がずきんと鳴る。
 
彼の態度が、いつもと同じに見せかけてほんの少しズレているように感じるのは、由梨の考えすぎだろうか。
 
昼間の佐藤の話が頭をよぎる。
 
でもだからといってもちろん彼を問い詰めるわけはいかなかった。

彼が由梨を裏切るようなことをするはずがない。きっとただの考えすぎなのだから。

「じゃあ、沙羅をお願いします」
 
頷いて由梨はリビングを後にした。
 
バスルームでゆっくりと湯に浸かって心を落ち着けようとしたが、あまりうまくいかなかった。

よくないことが頭に浮かび不安な気持ちが胸に広がるのを止めることができなかった。
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