さくらの記憶
第十六章 東京での再会
そんなある日。
遥が体調を崩して会社を休み、さくらは1人で受付をこなすことになった。

もともと、受付は必ず2人いなければならない訳でもないため、1人でもなんとかはなる。

さくらはいつも以上に、てきぱきと手際良く仕事をしていた。

すると、栗林が受付のカウンターの横に来た。

来客の対応が途切れたタイミングで、さくらが声をかける。

「お疲れ様です。どなたかのお出迎えですか?」
「ああ、お疲れ様。今日、受付が1人体制だから、大事なお客様はなるべく自分で出迎えるようにって通達があってね」
「そうなんですね!すみません、ご迷惑をおかけして」
「いやいや、さくらちゃんが謝ることじゃないでしょ?それに、遥ちゃんが休んでなくてもそうしようと思ってたんだ」

さくらは、気になって聞いてみる。

「そんなに大事なお客様がいらっしゃるんですか?」
「そうなんだよ。地方の小さな不動産会社の社長さんなんだけどね。膨大な土地を所有しているのに、どんなに他の企業が声をかけても土地活用を考えてくれなくて。あの有名な四ツ葉建設とか、友井不動産の話も断ったんだって」
「ええー!本当に?」
「信じられないでしょ?何億って儲けが出る話を断るなんて、もしかしてその会社は幻なのか?実在しないのか?なんてことまで、不動産業界では噂になってるよ」
「それで、その幻の社長さんがいらっしゃるんですか?今からここに?」
「そう!なんと、俺が提示したプランに興味を持ってくださってね。一度詳しく話を聞きたいって」

ええー、凄い!と、さくらは思わず大きな声を出してしまい、慌てて口を押える。

「じゃあ、私も粗相のないように気をつけますね。栗林さんのせっかくのお手柄を、台無しにしないように」
「さくらちゃんがそんなことするはずないでしょ?あ、そう言えば、異動の話、考えてくれた?」
「あっ、それが、まだ…」
「そうか。でも、この案件は俺にとって一番大きな仕事になる。さくらちゃんがサポートしてくれたら本当に助かるんだ。すぐにでも来てもらいたいくらいだよ」
「でも、あの…」

その時、エントランスの自動ドアが開く音がした。

栗林とさくらは、すぐさま身体の向きを変えてお辞儀をする。
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