さくらの記憶
第三章 思わぬ再会
「ん?」

読んでいた新聞から顔を上げて、祖父が窓の外を見る。

「どうかした?おじい」

パソコンをカタカタと打ちながら、北斗(ほくと)が声をかける。

「今、なんか物音がしなかったか?」
「んー?別に」

手元の書類に目を落としながら適当に答えると、祖父は机の向かい側から身を乗り出してきた。

「いや、なんか妙な音がしたぞ?」
「雨の音じゃないの?」
「違うな、そんなんじゃない。なんかこう、ザーッと」
「だから、雨だって」

視線も合わせず否定する北斗に、祖父はムッとしたようだ。

「絶対違う!北斗、お前、自分の耳とわしの耳、どっちを信じるんじゃ?」
「そりゃー、83歳の耳と28歳の耳なら、生物学的に言っても俺の耳だな」
「あーそうかい!じゃあ、もしわしの耳が正しかったら?生物学的に、お前よりわしの方が優れた人種ってことじゃからな!」

北斗は、やれやれと言わんばかりに祖父を見る。

「まったくもう、なんでそんなにムキになるんだよ?」
「北斗がわしの話を聞いてくれんからじゃろうが。ああ、この歳になって、孫にこんな扱いを受けるなんて…。天国のばあさんや、聞いておくれ。北斗ときたら…」
「あー、もう!分かったから!見てくりゃいいんだろ?外を」

北斗は、話を遮るように立ち上がった。
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