さくらの記憶
第五章 蘇る記憶
「じゃあ、気つけてな」
「はい。行ってきます」

玄関で見送る祖父に微笑んで、さくらは北斗と一緒に外に出る。

玄関のすぐ前に停めてある4WDのロックを解除しながら、北斗はふと、昨日さくらを見つけた林に目を向けた。

「そう言えば君のスポーツバッグ、中に財布とか入ってた?」
「いえ、着替えだけでした」
「そうか…。もしかしたら貴重品は、別の鞄に入れていたのかもな」

ちょっと見てくる、と行って歩き出した北斗は、ピタリと足を止めてさくらを振り返る。

「君はここから動かないで。いいね?」

真剣な表情でそう言ってから、踵を返した。

「この辺だったよな…」

昨日、さくらがいた場所を探してみたが、何も見つからない。

北斗は上を見上げた。

すると、斜面の途中に何かが埋まっているのが見える。

手を伸ばして掴み上げると、それは長い紐のついた小さなバッグだった。

「あったよ。これじゃないか?」

バッグを見せながら、さくらの元に戻った時だった。

後ろから強い春風が吹いてきて、満開を過ぎた桜の木から、一気に花びらが舞い落ちる。

思わず目をつぶり、髪を押さえたさくらが、やがてゆっくり目を開ける。

桜吹雪を浴びながら、驚いたような表情でこちらを見上げ、小さく確かに呟いた。

「北斗さん…」

その瞳には、強い力が宿っていた。
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