さくらの記憶
第八章 5月1日
次の日。

会社の事務所に出掛ける北斗を見送ったあと、祖父とさくらは庭の落ち葉を掃いていた。

「今日はとってもいいお天気ですね」
「そうじゃな。ここらもようやく、ポカポカ暖かい日が増えたな」

そんなことを話しながら、花に水をやっていると、下の田舎道から屋敷に繋がる道を、袈裟姿の男性がやってくるのが見えた。

「おじいさん、お客様…?」
「ん?」

怪訝そうなさくらの視線を追って振り返った祖父も、はて、誰じゃろう?と首をひねる。

「失礼致します。私は地方の、しがない僧侶なのですが、こちらは有名なお寺ですか?」

近づいて来た男性は、低い声でそう尋ねた。

「いや、ここはただの民家です。この近くに寺もありません」

祖父が答えると、
「そうでしたか、失礼致しました」と言って頭を下げる。

向きを変えて立ち去ろうとした僧侶は、ふと祖父の後ろにいるさくらに気づき、じっと探るような視線を向けてきた。

(なにかしら…?)

さくらはが会釈をすると、僧侶はもう一度頭を下げてから去っていく。

なんとなく気味の悪さを感じたさくらは、気持ちを切り替えるように軽く頭を振ると、また花に水をやり始めた。
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