この一秒に、愛を込めて

一秒が、永遠になる

 ときどき、見る夢がある。
 
 そこは決まって夜で、私は広い空間の中にいる。空には今にも降ってきそうなほどの星が散りばめられていて、届かないとわかっているのに、私はつい、手を伸ばしてしまう。
 その星空の正体を、ようやく最近突き止めた。
 今、私がいるこの場所。彼の車の助手席。そして、目の前に広がる夜と、巨大なスクリーン。星空の正体は、今まさに目の前で流れている、映画のエンドロールだった。
 
 進藤隼汰と連絡先を交換してから、一年が過ぎようとしている。
 彼が全てを打ち明けた夜、私はにわかには信じられず、言葉が出なかった。思い出せない、というより、忘れている自覚が全く無いので、「わからない」という気持ちだった。ただ、その後両親に連絡をし、さらには役所で戸籍を調べたところ、紛れもなく私は「進藤(しんどう)ひなた」であり、彼の暮らすあの家の住所が本籍地として書かれていた。
 紗織さんはどうやら初めから全てを知った上で、私を受け入れてくれたようだった。話を合わせ、時に背中を押し、何かあれば進藤隼汰へ連絡していたという。私だけが何も知らず、周りの優しさにずっと守られていたというわけだ。自分だけが傷付かない場所にいて、彼を傷付けていたのだ。そのことが、本当に申し訳なく思えた。

 進藤ひなたとしての自分を受け入れた私は、今もまだ一人で暮らし、図書館で働いている。彼と一緒にあの家で暮らす決心はまだつかなかった。変わったことがあるとすれば、彼との関係だ。私たちは、夫婦に戻った。世間的には、だけど。
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