この一秒に、愛を込めて
 人生、何があるか本当にわからない。
 ベッドに寝転びながら、私はスマホを見上げる。画面に映し出されている「進藤隼汰」の名前に、思わず頬が緩む。
 
「連絡先……交換しちゃったんだよね……」
 
 まだ信じられない。まずはお天気の話から始めて、世間話で徐々に距離を縮めて、それから……と勝手に考えていたのに。まさかまさか、いきなり連絡先交換までこぎつけるなんて。本当に、人生何があるかわからない。生きてて良かった。
 
 ——♪
 
「わっ——痛っ!」
 
 突然スマホが鳴った。びっくりして思わず手を離すと、スマホは寝転んでいた私の顔面を直撃した。痛い。そしてダサい……。こんな姿、進藤さんには絶対に見せられない。
 起き上がってスマホを手に取り、メッセージを確認する。さっき登録したばかりの進藤さんからだ。
 
『進藤です。先ほどはありがとうございました。あらためて、よろしくお願いします。』

「こちらこそ、よろしくお願いします。」っと。あ、これじゃ会話が終わっちゃう。どうしよう、何か質問しなきゃ……。
 
「どうして私の名前、知ってたんですか?」
 
 ——遠山ひなたさん
 彼はさっき、私をフルネームで読んだ。だけど私の名札には、「遠山」としか書かれていない。
 
『それは、他のスタッフの方から「ひなたちゃん」て呼ばれていたのを知っていたから。でももし間違ってたらアウトでしたね(笑)』
 
 意外にも(笑)とか使うんだ。普段の進藤さんからは全く想像できない。ちょっと待って、これが俗に言う「ギャップ萌え」?
 
「そうだったんですね。」
『はい』

 しまった。会話が終わってしまう。
 
「あの、進藤さん。私ずっと気になっていたことがあるんです」
『はい。何でしょう?』
「進藤さんは何のお仕事をされているんですか?」
 
 テンポ良く返ってきていた返信が止まる。もしかして今の、まずい質問だったのかな?
 すると、数分時間を置いて返信があった。
 
『何だと思いますか?』
 
 ええっ。まさかの質問返し?
 
「小説家、ですか?」
『ハズレです』
「じゃあ、役者さん?」
『それもハズレです』
「……降参します」
『降参早いな(笑)じゃあ、今度正解をお伝えしたいので、俺とデートしませんか?』
 
 ええっ⁉︎ ウソ、もうデートのお誘い⁉︎ いくらなんでも急展開すぎる。もしかして一生分の運を使い果たしちゃったりしてない? 私……。
 
「是非。よろしくお願いします」
 
 本当はもっと絵文字とか使いたいところだけど、浮かれているのがバレそうでやめておいた。思った以上にそっけない文面に、送った後で後悔してももう遅い。
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