「大好き♡先輩、お疲れ様です♡」溺愛💕隣りのわんこ系男子!

第24話 城ヶ崎君視点「先輩、今日も可愛いですね♡」11

 野鳥の奏でる鳴き声が耳に心地よい。
 天気は快晴だ――。
 絶好の観光日和と言える。

 レストランの大広間からは箱根の自然が一望出来て、山の新緑が生き生きと鮮やかで白い花をつけた木々もさわさわと揺れていた。

 旅館の朝食は豪華なバイキングで、夕食と同じぐらい品数があるように見えた。
 朝食も夕食も席は事前に決められていて、僕は野坂先輩よりだいぶ離れた席に座ってる。
 先輩と一緒のテーブルで楽しく食事をとりたかったけど仕方ないや。

「なあなあ、城ヶ崎ぃ〜? 野坂先輩の隣りが和久井さんだけど、城ヶ崎は大丈夫なん? あんなに笑って楽しそうで……賑わってんな、あそこのテーブル。朝からなんの話で盛り上がってんのかね。城ヶ崎も野坂先輩にぐいぐい行ったれ」
「良いよ、別に。……僕はいつも会社じゃ野坂先輩と隣り同士のデスクに座ってるしさ」
「そっ? 余裕あんなあ、城ヶ崎は。俺だったら無理だな〜、焦りまくりそう。男のくせに和久井さんって華があるじゃん。常盤社長と親戚でニューヨーク支店から来てんだよな? 仕事も出来るってことだろ。あんなイケメンに好きな女に近づかれたら嫉妬で焼け焦げて狂いそう」

 同期の香月《こうげつ》からかけられた言葉、実は内心は大丈夫じゃない。
 ぐつぐつと煮えたぎってるもんな、嫉妬の炎が僕の腹の中で。

「そうそう城ヶ崎、俺さ。……昨日とうとう彼女にプロポーズした」
「えっ? ああっ、おめでとう」
「ありがとう。二人っきりでカラオケでオールした後さ、盛り上がったから」
「勢いで?」
「いや〜、前からタイミングは見計らってはいたんだが、言える時に言っとかないと後悔すっかなと思ってプロポーズしたのさ。で、泣かれた」
「えっ? 泣かれたのか?」
「へへっ、嬉し泣きだってさ。号泣するもんだから彼女をなんか待たせすぎたのかって。……まあ、城ヶ崎も頑張れや」
「ああ。……とにかく良かったな香月《こうげつ》。おめでとう」
「おうよ、サンキューな」

 僕はちらりと野坂先輩を見た。
 結婚かあ……。
 僕にはまだまだ遠い先の先の将来の話だな。
 野坂先輩とは付き合ってすらいないんだから。

 付き合ったら、しばらくは二人の時間を満喫してイチャイチャしたいし、結婚は憧れるけど……。
 仕事もまだ一人で任せては貰えない立場で大切な人を養うとか考えられないかも。
 いや、なんとか出来るはずだ。
 そりゃあ、……やっぱり。憧れてしまう。
 野坂先輩と恋人同士になってしばらくしたら結婚して子供を授かって、ラブラブハッピーな家庭を作れたら、僕の人生は最高だろう。

 香月のヤツは勇気と実行力があるなあ。
 入社してすぐに付き合った職場恋愛の彼女と一途に愛を育てちゃって、羨ましいかぎりだ。
 僕はうじうじと何をやってんだという気になる。
 それぞれ人にはペースがあるとは思うけれど。
 こんなに恋敵を何人も近寄らせて好き放題されてしまうのは、僕がしっかりしてないからだとも言える。

 ……先輩ともっと心の距離を詰めて、先輩の胸の中が僕のことでいっぱいになって欲しい。

「この旅行が終わったら、すぐ社内運動会だな〜。俺、結婚もするし商品が豪華だし、今回は本気で行くぜ。彼女にはいいとこみせて豪華賞品を戦利品としてあげたいんだ。俺はリレーで出るけど、城ヶ崎はなんの競技に出んの?」
「そうか、社内運動会かっ! その手があったか」
「城ヶ崎?」
「僕はバスケのシュート合戦に出るよ。……野坂先輩にいいとこ見てもらおう」
「お、おうよ。頑張れよ。なんか良いな、城ヶ崎、目の奥にやる気が燃えてギラギラしてんじゃん」
「あわよくば恋のライバルも撃退できそうだよ」

 そうだ、僕がバスケで魅せることが出来たら、今度こそ先輩が付き合っても良いと思ってくれるかも。
 そうしたらラブラブを見せつけ野坂先輩に近づくヤツらを蹴散らかしてこてんぱんにして一掃してしまおう。
 
 きっと恋人同士になったらところかまわず、先輩といつでもどこでもイチャイチャし放題に……。そんな僕と先輩を見たらそしたらいい加減、野坂先輩を狙う恋敵の男性社員達も諦めるに違いない。

 僕は俄然《がぜん》、やる気が出て燃えてきた〜!
 バスケを好きだったからこそ挫折して遠ざかっていたけど、旅行から帰ったら練習しなくっちゃな。

「城ヶ崎? メラメラ燃えてるとこ悪いけど、早く朝飯食わねーと宿のチェックアウトの時間になっちまうぜ」
「おっ、そうだよね。……香月はさあ、彼女とどうして結婚したいと思ったの?」
「もお、単純な動機ですよ。俺が彼女ともっと近くで一緒にいたいから。それにいつまでも結婚願望がある彼女を待たせては男としてどうかなと思った次第です。責任とか生活とか考えなかったわけじゃないけど、二人で協力して暮らしていけばなんとかなるだろうし、なによりアイツとなら楽しいだろうから」
「ほー、すごい。香月、すっごく男前じゃないか」
「なんだよ、城ヶ崎。照れんじゃん」
「度胸があるよ。僕も先輩とそうなりたい」
「俺は、城ヶ崎と野坂先輩はけっこう良い線いってると思うけど? お似合いだって。あとはそうだなあ……」
「なに? 香月、なんかアドバイスあんの?」
「尽くせ。好きな女にはひたすら尽くせ。離したくないなら本気なら愛情も時間も出し惜しみはなしでとことん尽くせよな、城ヶ崎」

 僕なりにやってるんだけど。
 もっと野坂先輩に喜んでもらえそうなこと、考えよう。

 とりあえずは鎌倉でデートだ。
 ……社員旅行だけど、二人っきりになれるチャンスあるよね。

『二人っきりで鎌倉を回ろうね、城ヶ崎君』

 ふっふっふ。おお〜、僕ってば先輩と約束したじゃないか。
 野坂先輩と鎌倉をロマンチックに過ごして満喫するんだ!

 僕は箱根から鎌倉に向かう貸し切りの観光バスの中で、野坂先輩が好きそうなお店とか気に入りそうな場所をスマホとか観光雑誌で情報収集《リサーチ》することにしようと意気込んでいた。

 この時の僕はあんなことが起こるとは知らずに、のんきに野坂先輩とのデートのことばかり考えていたんだ。

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