らんらんたるひとびと。

　ドラモンド侯爵と一対一の面談…に皆、不安げな表情を浮かべる。
　ただ、一人。アスカ令嬢は余裕そうに微笑んでいる。

　厄介だな…と思いながら。
　入口付近に立っている男２人をちらりと見る。
　一人は司会者である骸骨男。
　もう一人は退屈そうに佇む20代の男が立っている。
　男とバチッと目が合ったかと思うと、男はにやりと笑ってきた。
　思わず、ぞっとしてしまう。
　アレはヤバイ人の目だ…。

　ブルブル震えながらも、ドラモンド侯爵に目をやると。
　話は進んでいたようで、
「本日はご挨拶だけいたします。我が息子、鈴です」
　ドラモンド侯爵が言うと、隣にいた令嬢が「ギャー、鈴様！」と叫んだ。
　がたんっと行儀悪く椅子を押しのけて立ち上がったのは、アスカ嬢だ。
　無言で信じられないものを見るかのような目つきで目の前に立っている男を眺めている。
　隣の令嬢は「ああ…」と頭を抱え込んだ。

　すらっとした背の高い男だった。
　美男子という噂は聞いていたけど、確かに人生の中で見たことのないような美しい男だ。
　黒…というより紫っぽい髪の毛はサラサラとして光っている。
　前髪は左右に分けておでこを出して、髪の毛は襟元までの長さ。
　黒いまんまるの瞳に褐色の肌は、南部出身だねえ…というのがわかる。
　目・鼻・口すべてにおいてバランスが取れていて。
　白い制服が映える。
「鈴です。今回はよろしくおねがいします」
　アスカ嬢が立っているのにも関わらず、注意もしなければ見向きもせず。
　ボソボソと挨拶だけをして、鈴様は去って行く。

「眼福だわー」
「なんて美しい男なの」
「あの人に会えただけでも幸せよ」

　横目で令嬢たちの会話を聞きながら。
　やっぱり、皆、高望みはしてないのがうっすらわかる。
　選ばれないとわかっていても。
　あのイケメンに会って拝んでおきたいという気持ちはあるんだろうな。