白蛇神様は甘いご褒美をご所望です

第5章

 ○カフェ・店前(昼間)

 私に手を伸ばした刹那、それを止めたのは紫苑だった。その瞬間、硝子の砕けたような音が耳に入る。

「私の小晴に何の用だ?」
「!」

 浅緋は紫苑が突然現れたかのように見えたのか、酷く狼狽していた。それと同時に周囲の視線が私たちに向けられ、一瞬で目立ってしまう。
 人払いの術式は一度、人に認識されてしまうと効果が薄れてしまうという。おそらく浅緋が私に接触したことで周囲の目が向いてしまったのだ。

「お前は小晴の何だよ?」
「婚約者だ」
「はあ!? 冗談だろう」
「彼が婚約者なのは本当よ」
「はあああ!?」

 声を荒げる浅緋に、私は驚き紫苑の背に隠れる。それに気付いたのか、彼は一瞬傷ついた顔をしたが、すぐに眉をつり上げた。

「火事になって心配して探し回っていたら、こんな所で男とデートとはいい身分だな」
「何を怒っているのか知らないけれど、浅緋には関係ないでしょう」
「関係ない――って、四代目の俺があの土地の権利を受け付いたんだぞ、お前は俺の下で俺を支える立場だって言うのに、何が関係ないだ!?」
「……消し炭にしようか」
(発言がものすごく物騒! でもそれだけは阻止しないと!)

 激昂する浅緋、今にもこの場の全てを壊しかねないほど静かに怒っている紫苑、周囲の視線が痛々しく感じる私はとりあえず周囲の目から紫苑を遠ざけることを優先し、二人をレンタルキッチンの奥にあるカフェスペースに誘導することにした。
 大変遺憾ではあるものの、イチゴのパフェはまた今度にしよう。
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