白蛇神様は甘いご褒美をご所望です

第7章

 ○レンタルキッチン(昼間)

 十二月半ばになるとクリスマスパーティーなどでレンタルキッチンの需要が多いらしく、狂は少し手狭な十畳ほどの部屋で飴細工と金太郎飴を作っていく。それともう一つ大人向けのリキュールボンボンを作っている。いずれは日本酒でも試すところだが、今日はその練習だったりする。

「今日は工程が異なるのだな」
「はい。125度になったら鍋の底を氷水のいれたボールにつけて、余熱で温度を高くしないようにするためです。それからりキュートを入れたボールに先ほど加熱した糖液を流してまた鍋に入れを数回繰り返して混ぜ合わせるのです」
「ふむ。今日は見るだけではなく、飴を触れてみたいのだが」
「参加してみますか? ではこの後、金太郎飴を作るときに触ってみましょう!」
「ああ」

 飴作りに興味を持ったことが嬉しくて、力一杯頷いた。
 けれどここで私は彼が人外であり、人の形をしているけれど人とは異なるのだと言うことをすっかりと忘れていたのだ。

 その事件というかアクシデントは金太郎飴を作っている最中で起こった。
 水飴を加熱して130度ほどの液体を取り出したあと、冷却板の上で80度まで冷やすのだが、その際は勿論素手ではなく特別な手袋を使用する。
 紫苑に予備の手袋を渡そうとした矢先、普通に素手で触ったのだ。まだ百度以上ある飴の液状を!

「紫苑!」
「ん、どうした?」

 慌てて手を掴むと、すぐさま洗い場に引っ張って蛇口をひねって指先を冷やす。それから火傷になってないか痛みがあるかを確認する。

「紫苑、痛みは?」
「ないが……?」

 紫苑はきょとんとした顔で、私が焦っていることに驚いてもいた。指先を見ると火傷の痕などなにもなかった。
 ここにきて彼が人間ではないのだと実感する。
「怪我してない。……よかった」と、力が抜けて座り込んだ。

「ああ、人間はこの程度で怪我をする弱き者だったな」
「そうですが、それだけではなく危ないことはダメです! 心配しました……」

 声を上げて指摘するが紫苑は、何故私が声を張り上げたのか理解しておらず眉を潜めた。

「問題ない。数十の剣で貫かれても生きているしな」
「それでも危険を回避しないやり方は危険です」
「危険、か。……私には最も遠い言葉だ」
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