【短編】隣の席の田中くんにはヒミツがある
「え? や、やだっ!」

「浜田さん!」


 私の近くにいた黒服が数人近付いて来て、私も言うことをきかない足を何とか動かしてジリジリ後退する。

 何が何だか分からないけれど、とにかく捕まるわけにはいかないってことだけは分かるから……。


「大人しくしろ!」

「ひっやだ!」


 大きな声を出して腕を伸ばしてくる黒服から何とか逃げる。

 といっても、思うように体が動いてくれないから腕を避けるのが精一杯だった。

 そんな必死の状況、避けるのだって何度も成功するわけじゃない。


「このっちょこまかと!」

「きゃあ!」


 今度こそ捕まってしまう!

 思わず後ろに下がって、ガードレールにぶつかった。

 そこまで下がって来ていたと思っていなかった私は、変に体重を後ろにかけてしまって……。


「え……?」

「浜田さん!」


 浮遊感と共に田中くんの叫ぶ声が聞こえた。

 私は、三メートルは下にある川の方へ落ちてしまったんだ。
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