【短編】隣の席の田中くんにはヒミツがある
「いきなりごめん。でも、ずっと可愛い名前だなって思ってて……呼びたかったんだ」

「う……あ……うん」


　気恥ずかしそうに照れる田中くんを見て、私だけが恥ずかしいわけじゃないって分かった。

　そのおかげで、鼓動は駆け足のままだけれどちょっと落ち着く。


「じゃ、じゃあ……私も名前で呼んだ方がいいよね？」

「え？」

「っ……佳、くん」


　田中くんは私を名前で呼んでくれたし、彼氏彼女なら名前で呼ぶべきかなって思って勇気を出して呼んでみた。

　恥ずかしすぎて結局くん付けしちゃったけれど。

　田中くん――佳くんのように呼び捨てはまだ難しそうだな、と思いながら彼の反応をうかがうと、片手で口を覆いながら耳を真っ赤にさせていた。


「やば……俺死ぬかも」

「え⁉　死んじゃやだ！」


　とんでもない言葉を真に受けて驚くと、フッと笑われちゃう。


「大丈夫、死なないよ。死なないから、ギュッてしてもいい？」

「ふぇ⁉」

「何その反応、ホント可愛すぎ」


　耳は赤いままなのに、佳くんはカッコイイ笑みを浮かべて両腕を広げた。


「で？　いいかな？」

「うっ……ぅん」


　恥ずかしいし、ドキドキしすぎて心臓が痛いくらいだけれど……。

　でも嫌なわけはなくて、私は小さく頷いてからゆっくり彼の腕の中に納まった。

　そしたら、佳くんの鼓動も聞こえてきて私と同じ速さなんだって気付く。

　佳くんも私と同じようにドキドキしてるんだなって実感しながら、私は彼のお兄さんから電話がかかってくるまでその腕の中にいた。
< 46 / 48 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop