溺愛甘々トライアングル
第四話



☆第四話☆



○校舎裏

璃音(りと)に抱きしめられている朝妃(あさひ)を、驚き顔で見つめる勇大。


朝妃は慌てて、璃音の腕の中から抜け出す。



勇大(あの二人……)


悔しくて勇大は、顔を歪める。




勇大(ゆうだい)の回想。
(数十分前。体育館。体育の授業中)

バスケ―ボールを持ちながら、心の中でぼやく勇大。



勇大(なんで俺を避けてるのか。理由を言えよ、バカ朝妃)



勇大は、隣のコートの外で三角座りをしている朝妃を見つめる。

朝妃と目が合うも、プイッと視線をそらされた。



勇大(くっそ!)



振り向いて、バスケットゴールにシュートをした勇大。

ゴールにボールが入った瞬間、女子達の悲鳴が上がった。

声の方を向く勇大。

バレーボールが転がっているそばに、朝妃が倒れている。

朝妃のところに駆けつけようと走り出したけれど、絶望で足が止まった。

キュート王子として大人気の璃音が、大好きな人を愛でるような顔で、朝妃をお姫様抱っこをしたから。



璃音「僕が保健室に連れていきます」

先生「星月(ほしづき)、頼んだ」



朝妃をお姫様抱っこしたまま、璃音が体育館から出た。

騒ぎが収まり、体育の授業が再開。

勇大は心がモヤつきながらも、バスケの試合を始める。

試合終了。試合に勝っても勇大は喜べない。

璃音にお姫様抱っこをされている朝妃を思い出して、苦しくなる。



勇大「俺、バスケパス」

先生「青柳、どこに行くんだ?」



先生の声が耳に入らなかった勇大。走りながら体育館から出ていった。

(回想終了)




〇現在。校舎裏。

立っている朝妃と璃音の前で、勇大は朝妃に文句を言う。



勇大「なんで保健室にいないんだよ。探しまわったんだからな」



朝妃をかばうように、勇大の前に立つ璃音。



璃音「冷徹魔王様も、人の心配をすることがあるんだね」

勇大「朝妃は幼馴染だ。心配して何が悪い」

璃音「勝手にすれば。僕にとってはどうでもいいよ。君のことなんて」



笑顔で嫌味っぽく挑発をする璃音。

勇大は今にも怒りで噴火しそう。



璃音「でもまぁ、忠告くらいしてあげよっかなぁ」

勇大「忠告?」

璃音「勇大君はこの先、絶望する。間違いなくね。宝物に依存していた自分に気づいて、手放したものの偉大さを痛感する」

勇大「俺は依存なんてしていない。人に頼るは大嫌いだ!」

璃音「その甘ったるい自信過剰が、君の人生を闇に突き落とすんだ」

勇大「はぁ?」

璃音「わからなくていい。一生わからないでもらいたいな。僕が見つけた最高の宝石を、奪われたくないから」



璃音の挑発的な態度にムカつく勇大。

勇大と璃音の険悪ムードに、朝妃はオドオドしている。

不安そうな朝妃に、とびきり可愛い笑顔で両手を広げる璃音。



璃音「おいで、朝妃ちゃん。僕が朝妃ちゃんの欲望を、開放してあげる」



璃音は、キュートなウインクを朝妃に飛ばす。



璃音「自分の着たい服をまとって、おもいっきり可愛くなればいいよ。大好きなぬいぐるみを抱きしめて、キュート女子をエンジョイすればいいしね。僕が味あわせてあげる。そのままの自分で愛される、最高の喜びを」

勇大「朝妃のことを知らないやつが、言いたい放題言いやがって。朝妃は普通の女子とは違う。可愛いものに全く興味がないんだ」



朝妃の耳に唇を近づける璃音。

優しい声でささやく。



璃音「呪縛を解くチャンスは今しかない。ここで偽りの自分を捨て去らなきゃ、朝妃ちゃんは一生、悲しみの森をさまよい続けることになるよ。それでもいいの?」



苦しそうな顔で、考える朝妃。



勇大「朝妃、保健室まで送ってやる。行くぞ」



勇大に腕を引っ張られ、連れ去られる朝妃。

数歩で足を止める。

朝妃の手を掴んだまま振りかえる勇大。



朝妃「……ねぇ、勇大」

勇大「なに?」

朝妃「私がフリフリのラブリーワンピースを着て、ウサギのぬいぐるみを抱きしめていたらどう思う?」

勇大「フッ。お前はそういうキャラじゃない。そんなことは絶対にしない」



勇大に鼻で笑われ、朝妃の心に悲しみがこみあげてくる。



朝妃(私が間違っていた。偽りの自分が愛されても、本当の私が拒絶されているのと一緒だ)



勇大につかまれている手を、朝妃は無理やり引っこ抜く。



朝妃「私ね……本当は可愛いものが大好きなの……」

勇大「……えっ?」

朝妃「女性アイドルに憧れてて、私も女の子っぽい服が着たいってずっと思ってたんだ」

勇大「……なんだよ、それ」



信じられなくて、垂らしたげんこつを握りしめる勇大。



勇大「(焦りながら)オマエが言ったじゃん。可愛いものなんて興味がない。男の服着ると落ち着くって」

朝妃「全部……ウソ……なの」

勇大「……う……そ?」



怒りが抑えきれなくなった勇大。

プチンと額の血管が切れ、朝妃の両肩に手を置き罵倒する。



勇大「俺を騙してたって言うのかよ? 幼稚園のときからずっと。冗談だよな? 冗談だって言え!」

朝妃「(顔を背けながら)……ごめん」

勇大「オマエは知ってるだろうが! 俺は嘘をつく奴が大嫌いだって! なんでだよ、理由話せよ! めいっぱいの言い訳して、俺を納得させろ!」



朝妃(理由かぁ…… 彼女がいる勇大に言えないよ。好きですなんて)



朝妃「私のこと……嫌いになってくれていい……」

勇大「答えになってない! ウソをついてきた理由を話せって言ってんの!」



肩に乗る勇大の手を振り払う朝妃。

涙を浮かべながら凛とした瞳で勇大を見つめ、声を荒らげる。



朝妃「私は可愛くなりたいの! オシャレを楽しみたいの! その願望が抑えきれなくなったの! 親友も幼馴染もやめよう。一緒にいて楽しいって勇大が言ってくれた私は、もういないから」



泣きだした朝妃。大粒の涙を流しながら、手で拭っている。

勇大は驚きで固まる。



勇大(初めて見た……朝妃が泣くところなんて…)




璃音は朝妃の頭をナデナデ。



璃音「よく言えたね。えらい、えらい」



泣いている朝妃の顔を隠すように、璃音は朝妃を抱きしめる。


璃音「朝妃ちゃんの可愛い泣き顔は、僕だけのもの。 乙女心が分からない勇大君には、見せてあ~げない」

勇大「……」

璃音「朝妃ちゃんは僕の宝ものなの。幼馴染だからって奪いに来ないでね」

朝妃「(ぼそり)ほんとは……泣きたくない……」

璃音「意地っ張りなとこも可愛い。でも涙は、意志とは関係なく流れる厄介ものだからね。涙が枯れるまで泣いちゃいなよ」

朝妃「だから、泣きたくないんだってば!」

璃音「辛い時は何かに依存するのが一番なんだ。朝妃ちゃんの依存先は僕ね」

朝妃「勝手に……決めないで……」

璃音「今日の放課後、カラオケしよう」

朝妃「……しない」

璃音「ラブリリーの新曲、僕、振り付け完璧なんだ」

朝妃「……」

璃音「女性アイドル以上に可愛く踊れるよ。見たくない?」

朝妃「ダンス……完コピしてる……私も……」

璃音「いいじゃん、じゃあ一緒に踊ろ。キュートな推しになりきっちゃえ。悲しみを吹き飛ばしてくれるよ」

朝妃「私……男顔なのに……ひかない?」

璃音「僕の瞳に映る朝妃ちゃんは、いつもキュートな女子だったよ」


璃音の胸に顔を埋めていた朝妃。

目に涙を浮かべたまま、璃とを見上げる。

とびきりの笑顔で、朝妃を見つめる璃音。



璃音と肩を並べて、朝妃が歩いていく。

心が痛めつけられて苦しすぎる勇大。

遠ざかる二人の背中を、見つめ続けることしかできない。



勇大「俺の知らない……朝妃がいる……」




今にも泣きそうな勇大の顔面アップで、第4話終了。





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