アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!

ビールが美味しいです

 洋服選びに満足して、私たちは麻布にある日本料理のお店の暖簾をくぐる。木目を基調とした落ち着いた色合いの店内。このお店を利用する年齢層からすれば、芸能人を見たからと言って騒いだりはしないと思うが、なにせ、影武者なので個室の部屋をチャージした。
 席につき、コース料理とビールを頼むと、やっと人目から解放されて気持ちが落ち着いた。

 マスクを外した北川さんが、シルバーカラーの髪を掻き上げ、「ふぅー」と一息つく。
 洋服を選んでいる間も遠巻きに視線を感じ、中にはスマホを構えている人も居て、盗撮されていたのかもしれない。ずっと、好奇の視線に晒されているのは、精神的に負担だった。

「お疲れさまでした」
「代役、お疲れさま」

 背の高いタンブラーグラスを合わせて、乾杯をする。

「芸能人って大変だね。僕は裏方で良かったよ」

「そうですね。有名税と言っても常に誰かの視線があるのは疲れますね。それにしても盗撮している人もいて、あの記者だけでなく、新たな噂が立ってしまいそうで……せっかく北川さんにいろいろ骨を折ってもらったのに、申し訳なくて」

「大丈夫だよ。いまごろ札幌に居る大都さんがSNSをガンガン更新する手はずになっているんだ。誰かが僕らの写真をSNSに投稿しても、『東京にHIROTOが居るはずが無い』って、ファンの方が投稿者に抗議のメッセージを送ってくれるはずだよ」

 えっ⁉と思った私は、スマホを取り出した。トップ画面にはインスタから通知が入っている。ライブ配信のお知らせだ。
 タップして画面を開くと、ホテルの部屋なのだろうか、白地にスポーツメーカーのロゴが入ったTシャツ姿の大都。その背景の窓から札幌の夜景が見える。
 『こんばんはー、ツアーの第一弾は札幌。前乗りして美味しい物を楽しんでいます』
 とスマホの画面の中で大都が笑っていた。
 その顔を見て、胸の奥がじんわり熱くなる。
 
「私……大都に守られているんですね」
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