アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!

油断をしてはいけません

 スポーツウエアのままの大都を追い出し、私は心の安寧を手に入れた。
 ワインセラーから取り出したワインのコルクを抜いて、グラス片手にいそいそとリビングのソファーに移動する。

 足元に転がっていた大都のボストンバックを悔し紛れにポスッと蹴ると、少し気持ちがスッとした。

 4人掛けのL字ソファーに足を伸ばして座り、リモコン片手に動画配信サイトをザッピングする。
 映画鑑賞が唯一の趣味で、恋愛ものからアクション映画まで、なんでもござれだ。
 
「そういえば、民放とか何年見ていないんだろう?」

 最近のお笑い芸人さんやアイドルの顔が浮かばない。
 街に流れる音楽はおぼろげに覚えているけど、それを誰が歌っているかなんてどうでもいい。というか、アイドルの顔は同じに見えてしまうのだ。
 
「年かしら……」

 ただ単に、覚える気持ちが無いからと思いたい。
 なんとなく、何年振りか民放のテレビのスイッチを押した。ちょうど、黒いサングラスをかけたタレントが女子アナと一緒にやっている音楽情報番組を見つける。
 
 久しぶりに見るサングラスのタレントが、少し老け込んでいるのを見て、軽くショックを受ける。

「私もそれだけ年を取ったってことよね」

 グラスのワインをグビッと煽り、明日はお店の空き時間に誰かを捕まえて、フェイシャルエステをやってもらおうと、心に誓う。
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