アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!

すべてはこの人の手の上で

「ネクタイおかしくない?」

 我が家のドレッシングルームで、鏡とにらめっこしている大都は、Yシャツにスラックス姿で慣れないネクタイに悪戦苦闘中だ。
 今日も黒髪なのは、ウイッグを付けているから。

 妊娠告白から半月が経ち、忙しいスケジュールの合間を縫って、親との食事会の予定を立てた。
昔、顔合わせに使った思い出のホテル、レストランの個室をチャージしたのだ。それに向けての準備に余念がない。

 普段、余裕しゃくしゃくの大都。それなのに一転、今はそわそわして落ち着かない様子だ。
 4万人が集まるライブでは平気なのに、親と会う方が緊張しているみたいで、そんな大都を可愛く思えてしまう。

「うん、大丈夫。とっても素敵よ」

「それなら良かった。由香里のワンピースも似合っている」

私が着ているアイボリーのワンピースは、レース仕様の上品な仕立てだ。うちの母親はさておき、大都のお父さんに良い印象を持ってもらいたいと、選び抜いた服なので、素直にうれしい。

「ありがとう」

顔を上げた私の油断をついて、大都はチュッと唇を重ねた。

「もう! 口紅がついちゃったじゃない」

私の唇から移った紅が、 大都の唇の真ん中辺りを仄かに紅く染めている。

「ごめん」

大都は、悪びれた様子もなしに、フッと目を細めるとそれを大都は親指の腹でぬぐう。
何気ない仕草にさえも、ドキドキとさせられる。
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