アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!
 関東スポーツの記事を鵜呑みにすれば、私とHIROTOが別れたならHIROTOの事務所退所が覆るような書き方だ。
 それに怒った一部のファンにより、写真の人物が私だと特定され、どこかの掲示板に個人情報を書き込まれたのだろう。

そのせいで、エステサロンmodérationの電話には、嫌がらせクレームの電話がひっきりなしに掛かっていた。
家の電話ならコンセントを引き抜けば、当面切り抜けられる。けれど、お客様あっての商売、電話に出ないとならない。
エステサロンmodérationは、対面での予約、インターネット予約、電話予約を受付けている。
嫌がらせで、電話予約が妨害されるのは困る。

「オーナーなんで、こんなことになっているんでしょう」

 困り顔を向ける福田さんにネット記事を見せた。あれほど言っても、私とHIROTOが付き合っていると信じてくれなかったけれど、スクープ写真にはHIROTOに抱きかかえられている私が写っている。今度は信じざるをえないだろう。
 ひどい記事の内容に、ファンの福田さんとしては、私のことを許せないと思うかもしれない。仕事の仲間であり、推し活仲間の楽しい関係が崩れてしまう可能性がある。

「……さっきの話し本当だったんですね」

「迷惑をかけて、ごめんなさい。お店のクレーム電話の対応、もう少し頑張ってくれる?」

「わかりました」
 と、複雑な表情でうなずく福田さんに新しく購入したスマホを手渡した。福田さんは手元に視線を落としうつむいたままだ。

「いま、過去にご利用くださったお客様へこのスマホの番号を記載したメールを送信したの。常連さんは、このスマホに予約の電話をくださるはず。さっきアドバイスしてくれたおかげで、あらかじめ準備ができたの。感謝するわ」

 すると福田さんは、パッと顔を上げ、いたずらっ子のように笑う。

「お役に立てて良かったです。お礼はHIROTOのサインでお願いします」



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