アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!

空にはゆりかごのような月

 Gleamが発売され、特集記事『Body Produce By HIROTO』の広告効果は、エステサロンmodérationにとって絶大な効果をもたらした。
 前回のスクープ写真で来店を様子見していた常連さんからの予約はもとより、新規問い合わせもかなりの数になって、予約がいっぱいでキャンセル待ちが出るほどだ。

 とは言え、一部の心無い人から嫌がらせの迷惑電話もある。でも、その人たちは、もれなく家具の角に足の小指をぶつける呪いがかかっているはずだ。

 切迫流産で入院をしていたのもあって、以前から考えていたリモートワークに仕事が出来るようにした。
 これで、出産してからも働きやすくなるはずだ。
 もちろん、エステサロンmodérationは、足を運んでくださるお客様に心のこもった施術をすることで成り立っている。そのためにスタッフとコミュニケーションを取り、良い人材を育てていかなければならない。なので、体調の許す限りは店舗にも顔を出したいと思っている。
 
 そんなことを考えながら、パソコンのキーボードから顔を上げた。
 久しぶりの自分の部屋。大きな窓に視線を向ければ、ライトアップされた東京タワーが、数多の光の絨毯を敷いて、宵闇の中に浮かび上がる。

 この景色を見ると帰って来たんだな。と、つくづく実感する。
 
「由香里、ごはん出来たよ」

 早く帰って来た大都が夕飯を作ってくれて、私はワクワクとテーブルに着いた。
 妊娠5か月に入り、つわりも落ち着いて、キッチンから漂う食欲をそそる香りに、何でも食べれそうな勢いでグゥーとお腹が鳴る。

「き、聞こえた?」

 咄嗟にお腹を押さえたけど、恥ずかしさで頬が熱くなる。
 大都は、私の前に野菜たっぷりのスープを置いた。

「ん、体調良さそうで良かった。つわりが酷かったときは、青い顔して心配だった。お腹の子供ためにもいっぱい食べて」

 
< 194 / 211 >

この作品をシェア

pagetop