アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!

弱い女じゃありません

「ごめんなさい。明日も仕事があるから帰らないといけないの」

 ザワリと悪寒が走り、掴まれた腕を放してもらいたくって、自分の方へ引いた。けれど、思いのほか強く握られていて逃れられない。

「つれないこと言わないで、静かなところで飲み直そうよ」

 そう言って、困惑したままの私の腕をグイっと引き、藤森さんは足を進める。私は引きずらるように歩き始めた。

 面子をつぶさないように気を使ってあげていたのに、強引な手段に出るなんて!
 ムカつく、ハイヒールで思いっきり踏んずけてやろうかしら⁉

 そう思って、足元に視線を落とすと急に藤森さんが立ち止まり、勢い余った私はつんのめりそうになってしまった。

 びっくりして顔をあげた私の目には、藤森さんの前に男が立ちはだかっているの見える。
 その男は、黒いキャップを深く被り、黒いマスクをしていて素顔はわからない。革のライダースジャケットを着こんだ肩幅は広く、威嚇するように藤森さんを見下ろしていた。その男から怒気を孕んだ低い声が聞こえて来る。

「なあ、その女性(ひと)、俺のだから汚い手で触んな」

「なんだと!」

 藤森さんは、声を上げながら怯えたように足を引く。

「だ、か、ら、その女性(ひと)俺のなの。早く放さないと痛いめに合うよ?」

 と黒づくめの男は挑発的に顎をしゃくった。
< 44 / 211 >

この作品をシェア

pagetop