アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!

こんな暮らしも悪くない

「ただいま」

 明かりの点いたリビングのドアを開けると、ふわりと食欲をそそる香りが漂っていた。
 キッチンから大都の声がする。

「お帰り、タイミングばっちり、ちょうど出来上がったところ」

 一緒に暮し始めてから、早くも2週間が過ぎようとしていた。
 当初、1週間で出ていけと言っていた話しは、どこか遠くに追いやられている。
 明るい部屋に帰って来るのも、お帰りと言ってもらえるのも、心がこそばゆく、ほっこりして悪くない。
 
 意外にもマメな大都は、自分のことは自分でやってくれるし、早く仕事が終わったり、オフの日などは、こうして夕飯の支度をしてくれたりする。
 食事のメニューもヘルシーな内容で、美容や健康に良さそうでホント助かる。

「いい匂い」

「今日は鶏チャーシューと鮭のワイン蒸しだよ」

 蒸した野菜もサイドメニューに添えられ、色合いも栄養も良さそうだ。

「わあ、美味しそう。大都はお料理上手よね」

「蒸しただけのメニューだから、手抜きだけど」

 ぶっきらぼうなじゃべり方になるのは、照れているからだ。
 恋愛フィルターがかかっているせいか、何をしても可愛く見える。
いそいそとワインセラーの扉を開けて、普段使いのお手頃な白ワインを選ぶ。

「ワインあけちゃおうかな。飲む?」

 私の誘いに大都は残念そうに肩をすくめる。

「俺はまだやることがあるから遠慮しておく、由香里は飲んでいいよ。むしろ。いっぱい飲んで」

 含みのある悪戯な視線を送られて、ドキンと心臓が音を立てる。ワインを飲む前なのに酔いが回ったように頬が熱くなった。
< 70 / 211 >

この作品をシェア

pagetop