悲恋の大空

第9話「レイニーブルー」

[卯月 神]
 「なるほど、永瀬さんですか……確かに、彼女は朝蔵さんと仲が良い、仲が良すぎます」



 拗ねたように里沙を見て睨んでしまう卯月。



[加藤 右宏]
 「あいつ、何か知ってる感じだったゾー。聞いてみたラ良い情報が聞けるんジャないかー?」



 と言って卯月の顔を見るミギヒロ。



[卯月 神]
 「僕は嫌ですよ。下手な事して永瀬さんに怪しまれたら、大空さんのそばにも居られなくなるじゃないですか」



 昔の事を急に無関係な人が聞き出そうとすれば普通の人間なら怪しんで警戒するだろう。


 しかもそれは親友の禁忌(タブー)な話とらしい事なので尚更であろう。



[加藤 右宏]
 「お、オウ……」


[加藤 右宏]
 (こいつ、本当に大空の事好きなんダナー……)



 卯月の大空への愛を改めて感じるミギヒロであった。



[卯月 神]
 「なので、ミギヒロ君。君が代わりに行って来て下さい」


[加藤 右宏]
 「エー!?なんでオレ様がァ?ちょ、押すなって落ちっ……落ちるってばー!!……ぅゎ……ぅゎ……」



 突然卯月に背中を押されて焦って抵抗しようするミギヒロ。


 ミギヒロの足元がふらつく。



[卯月 神]
 「良いから、ほら今。今行って来なさい」



 卯月が無理やりミギヒロを高台から突き落とした。



[卯月 神]
 「頼みましたよー」



 下に落ちて行くミギヒロを無表情で見守る卯月であった。





 ヒューン!!





[加藤 右宏]
 「ヴわぁああああぁあ!!!」



 ミギヒロはマジな叫び声をあげながら校舎の方へ落ちて行く。


 そして向かう先は丁度良く開いていた窓の方へ……。





 ぎゅうーーーーーーどーーーーーーんっ!!





[加藤 右宏]
 「ぴげぎぃ!!!」



 ミギヒロはそのまま顔面の方から廊下に行き着いた。


 ミギヒロがもし人間だったのならこの時点で骨折、最悪の場合死に至っても当然だったが、ミギヒロは完全な人間ではないので結構無事だったりする。



[モブA]
 「なんだ!?」


[モブB]
 「空から人が……!?」



 校舎の2階にて、ミギヒロのまさかの登場の仕方に周りは騒然とする。



[加藤 右宏]
 「イタい……なんでオレ、飛べるのに飛ばなかったんだろ……?」



 床に這いつくばったままショックで動こうともしないミギヒロ。



[永瀬 里沙]
 「だ、大丈夫?」



 丁度廊下にひとりで歩いていた里沙がミギヒロを心配して声を掛ける。



[加藤 右宏]
 「ハッ!里沙様っ……」


[永瀬 里沙]
 「(さま)!?」



 ミギヒロは声の主がターゲットの里沙だと気付くと、顔を上げてその場に正座をし手を膝に揃えた。



[永瀬 里沙]
 「えっ?!」



 いきなり目の前で正座されてどうしたら良いのか分からなくなる里沙。


 ほぼ初対面で緊張した様子のミギヒロ。



[加藤 右宏]
 「こ、こんちにはー……は、ハジメマシテー」



 ぎこちない挨拶から里沙との会話を始めようとする所詮、内弁慶(うちべんけい)だったミギヒロ。


 そこで里沙があっ、と何かに気付く。



[永瀬 里沙]
 「ん?君、大空の家に居候してるって言う例の……右宏君?だっけ」



 里沙が白いゴーグルを見てミギヒロが右宏だと言う事に気付く。



[加藤 右宏]
 「えっ、あ、そうデす」


[永瀬 里沙]
 「やっぱり!なーんか見覚えがあると思ったのよねー!」



 と言ってパチンと両手で手を叩く里沙。



[加藤 右宏]
 「ハハハ、そうですネ……」



 愛想笑いをしながらいつ里沙に話を切り出そうかと考えるミギヒロ。



[加藤 右宏]
 「あ!あの!永瀬先輩、ちょっと人の居ないトコロで話せまセンか?」



 ミギヒロは唐突に里沙にふたりきりで話をしないかと誘ってみる。


 そしてそれに対して里沙は……。



[永瀬 里沙]
 「えっ!い、良いけど……」



 里沙はミギヒロが顔をしっかり見ていないのにイケメンだと信じているので、誘われて嬉しい気持ちになってしまう。



[永瀬 里沙]
 (ひゃー私もついにモテ期かしらっ?!)



 次の瞬間だった、里沙は自分が居る所が学校じゃない事に気付く。



[永瀬 里沙]
 「…………あれっ!?ここどこ?」



 里沙が今立っているのはいつしか誰かさんも迷い込んだ一面薄紫色の世界。


 環境音もBGMも無い。



[永瀬 里沙]
 「えっ!?えっ?えっ!!」



 訳が分からずその場で周りをキョロキョロする事しか出来なくなる里沙。



[加藤 右宏]
 「ごほんっ……アーアー、聞こえますカー?」



 またどこからか、まるで天の声のように里沙に呼び掛けるミギヒロ。


 その姿は見せずに……。



[永瀬 里沙]
 「この声……右宏君でいらっしゃいますか?」



 里沙は声でミギヒロだと言う事に一発で気付く。



[加藤 右宏]
 (そうだけど、特に答えなくて良いヤ……とにかく、早く質問しないと……えーっと)



 質問する事を直前になって考えるミギヒロ。


 この(あいだ)、里沙はずっと待たされている。



[永瀬 里沙]
 「あ、あれ?誰もいないの……?」



 見知らぬ場所で自分ひとりしか居ないと思った里沙は不安で萎縮する。



[加藤 右宏]
 「あっ!えーと!里沙様にいくつかお聞きしたいコトがあるんですけどー」


[永瀬 里沙]
 「あ!やっぱり右宏君がいるじゃない!!どこに居るのー?」



 ミギヒロの声が聞こえてきて笑顔を取り戻す里沙。



[加藤 右宏]
 「朝蔵大空と刹那五木、このふたりの間に何があったか聞きたくてデスね」


[永瀬 里沙]
 「えっ?大空と、刹那君?が、何?」



 里沙はミギヒロから急にそんな話が出てきて不思議に思う。



[加藤 右宏]
 「はい、恐らく何年か前に何か事件があったのではナイでしょうかー?」



 ミギヒロは里沙に悪いと思いつつ、探っていく、探っていく……。



[永瀬 里沙]
 「えっ……」


[永瀬 里沙]
 (まさか、中学の時の事を言ってるの……?でも、なんでこの子がそんな事探って来るの?)



 そう思って拳をギュッと握って話す事を躊躇う里沙。



[永瀬 里沙]
 「それは、言っちゃダメな事だと思うから、言わない……」



 "言わない"と堅い意思の里沙。



[加藤 右宏]
 (マ、そうだよネ。仕方無い、術は使いたくなかったけど、こうでもしないと卯月の野郎がうるさそうだからなー)



 ミギヒロは喉に気を込める。



[加藤 右宏]
 「ナガセリサ、アナタは口が軽くナール、軽くナール〜……」



 ミギヒロは里沙に本当の事を話してしまう事になる術をかける。



[永瀬 里沙]
 「な、何!?」



 里沙はミギヒロの謎の力がこもった言葉を聞いた途端、目を回して意識が朦朧としてくる。



[永瀬 里沙]
 「う、ん?私、私、何か質問されてませんでしたっけ?」



 術が掛かった(のち)、里沙の倫理観がバグってしまった。



[加藤 右宏]
 「ですから、朝蔵大空と刹那五木の間にあった過去について聞きたいンですー!」



 先ほどの質問を繰り返すミギヒロ。



[永瀬 里沙]
 「あー!その事ですか!それはですねー……」



 さっきまでの態度とは違い、気分良く答えようとする里沙。



[加藤 右宏]
 「うん」



 ……。



[永瀬 里沙 (中学時代)]
 「あのさ!あんたのやってる事は"いじめ"だよ?分かってんの?」



 それは中学1年の秋の時だった。



[刹那 五木 (中学時代)]
 「……」



 里沙の言葉に何も応えようとしない刹那。



[永瀬 里沙 (中学時代)]
 「……!!なんか言ったら?」



 里沙は黙ってる刹那にイライラして怒鳴る。



[刹那 五木 (中学時代)]
 「……おれは悪くない」



 刹那はそう言って里沙から目を逸らし、首を横に振る。



[永瀬 里沙 (中学時代)]
 「は?最低(さいってい)……」



 里沙は信じられないって顔をした(あと)、刹那を軽蔑した目で睨みつける。



[刹那 五木 (中学時代)]
 「永瀬には関係無いだろ」


[永瀬 里沙 (中学時代)]
 「は……?関係あるわ。あんたね!」



 里沙がそう叫んで刹那が食い気味に……。



[刹那 五木 (中学時代)]
 「ごめんだけど。もう口を出さないでもらえるかな?君よりおれは大空の事分かってるつもりだし、ただの女友達でしょ?正直そう言うの、うざい」



 これまた平気な顔をして里沙に毒を吐く刹那。



[永瀬 里沙 (中学時代)]
 「は!?何それ!幼馴染みだかなんだか知らないけど、調子に乗らないでよ!あんたのせいで大空はあんなんになったんだよ?分かってんの?」



 怒りに任せてまくし立てる里沙。



[刹那 五木 (中学時代)]
 「あいつは元々弱いんだよ」



 刹那はそう言ってため息を吐く。



[永瀬 里沙 (中学時代)]
 「っあんたのせいでしょ!?」



 叫んだ里沙の声が思わず裏返る。



[刹那 五木 (中学時代)]
 「……」



 刹那はまた黙った。



[永瀬 里沙 (中学時代)]
 「ねぇ!!」



 黙り込む刹那に里沙は怒鳴りつける。



[永瀬 里沙 (中学時代)]
 「何考えてんの?!何考えてんの?!!」



 里沙がそう叫んでも、刹那は背中を向けて離れていく。



 ……。



[卯月 神]
 「あっ、帰って来た。お疲れ様です」


[加藤 右宏]
 「……」



 珍しく大人しいミギヒロに卯月は首を傾げてみる。



[卯月 神]
 「……?聞いてきましたか?」



 ミギヒロに成果を尋ねる卯月。



[加藤 右宏]
 「……」


[卯月 神]
 「……?」


[加藤 右宏]
 「……あ、何……?」


[卯月 神]
 「ミギヒロ君?」


[加藤 右宏]
 「は、はい!天使様……」



 卯月に名前を呼ばれてやっとはっきり受け答えが出来るようになるミギヒロ。



[卯月 神]
 「永瀬さんから情報を聞けましたか?」


[加藤 右宏]
 「はい……えっと、ですね……」



 言いにくそうにモジモジするミギヒロ。



[卯月 神]
 「ん?」



 ミギヒロは卯月に耳を貸してもらうように頼み、卯月もそれに素直に応える。



[卯月 神]
 「そう……ですか」


[加藤 右宏]
 「ドウする?」


[卯月 神]
 「分かりませんけど、それは忘れさせたままの方が、良いかもしれません」


[加藤 右宏]
 「そ、ソウですよね」



 卯月の言葉にミギヒロは縦にうんうんと何回か頷く。



[卯月 神]
 「彼は……この歳になって、少しは変わったのでしょうか?それとも、変わってないのでしょうか?」


[加藤 右宏]
 「さ、さァ?それはドウなんでしょうか……?」


[卯月 神]
 「……不快だ」



 ……。


 放課後が来た。


 里沙ちゃんは午後の授業が受けられないほど体調を悪くしたらしく、昼休みに早退して行った。



[朝蔵 大空]
 「あーもう今日も雨ー?でも……」





 バサッ!!





 私は手に持っていた自分の傘を開く。



[朝蔵 大空]
 「えへへーん、今日はちゃんと持って来たもんねー」



 私は嬉しそうに傘を肩に掛けて舞うように歩き出した。





 つづく……。
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