悲恋の大空
第2傷『心青』

第1話「ハマってしまった!」

 素晴らしい朝が来た。



[朝蔵 大空]
 「はむはむはむっ……」



 私は朝ご飯を口にかき込む。


 んー!お米が美味しい〜!



[朝蔵 葵]
 「もー……早食(はやぐ)いしないの大空」



 朝ご飯を食べ終わった私は学校カバンを持って食卓から立ち上がる。



[朝蔵 大空]
 「行ってきまーす!!」



 今日も私は学校へ行く。



[朝蔵 葵]
 「早いわねーあの子……」


[朝蔵 真昼]
 「お姉ちゃん最近元気だね」


[朝蔵 千夜]
 「ふーん?」



 私が早く学校に行くようになったのは、会いたい人が出来たから。


 あと最近学校が楽しくなってきたから。



[朝蔵 大空]
 「……?」



 カラカラと車輪が回る。


 道の途中、目の前を車椅子の人が通っていた。


 しかもうちの男子の制服を着ている。



[車椅子の男]
 「……」



 珍しい、車椅子の子とかいるんだ……もしかして、1年生かな?


 ひとりで車椅子はちょっと大変そうだな。


 足が悪い子なのかな?


 私は特に干渉はせずその横を通り過ぎる。





 キーン♪コーン♪カーン♪コーン♪





 皆さん初めまして……。


 じゃなくて改めまして、朝蔵大空です!


 私は、今年から高校2年生になったどこにでもいる、冴えない女子。


 だったのですが……。



[卯月 神]
 「……」



 きゃあ〜♥今日もカッコ良いよ!卯月君っ!


 この人は私の彼氏!卯月神君!


 私の彼氏いない歴(いこーる)年齢の記録を止めてくれた初めての男の子♡



[卯月 神]
 「なんですか……」



 見てたら卯月君がこちらに気付いた。



[朝蔵 大空]
 「あ、ごめんごめん!ついボーッとしてたよ〜」



 私ったら自分でも知らない内に卯月君の方を見つめすぎちゃってたみたい。


 皆は地味地味言うけど、きっと卯月君は私の運命の人だと思う。


 まあ周りには一応付き合ってるとは言ってないけどね。


 ふたりだけの秘密ってやつ。


 あ、違うわミギヒロも知ってるんだった。


 あいつ……。



[卯月 神]
 「まったく……」



 やだなぁ私、卯月君の事ばっか考えちゃう。


 私の顔が幸せで(とろ)けてしまう。



[二階堂先生]
 「朝蔵〜、ここ答えてみろー」


[朝蔵 大空]
 「へ!?」





 ガタッ。





 突然先生に()されて、私はビクッとなって変な声が出てしまう。



[朝蔵 大空]
 「え、えとー……」



 やばい、何聞かれてるんだろう私……。


 話を全然聞いてなかったのは言うまでもなく、私は聞かれても答えられない。



[永瀬 里沙]
 「ほら、今ここやってんの」



 右斜め前に座っている里沙ちゃんが、こちらに振り返る。



[朝蔵 大空]
 「どこ?あーそこか」



 この子は私の中学からの親友の里沙ちゃん。


 こうやって私の事をいつも助けてくれる王子様のようなカッコ良い女の子です。



[二階堂先生]
 「ちゃんと集中してくれ〜」


[朝蔵 大空]
 「あはは……ごめんなさい」



 王子様と言えば、先日から王子役オーディションってのが宣告されました。


 今年の文化祭はなんと、私達のクラスは劇をやらされる事になっている。


 土屋校の伝統行事らしい、私は知らなかったけど。


 演目はオリジナルストーリーの『白雪姫と7人の王子様』、なーんてものだ。


 台本は小説を書くのが得意な文芸部の子が書いてくれたらしいです。


 主役の白雪姫は変わらずこの私です。


 ま、私のリアル王子様は卯月君だけなんだけどねー!



[永瀬 里沙]
 「ねぇねぇ、例のオーディションってさ。何するんだろうね?」



 今はお昼休みの時間。


 里沙ちゃんと一緒に学食でお昼を食べている。



[朝蔵 大空]
 「さ、さぁ?演技力テストとか?」



 まあ劇だし、やっぱり演技力が試されるのかなー?


 私も演技とかした事無いからそこだけ少し不安だなぁ。


 本番アガっちゃうかもしれないし。


 って言っても学生の文化祭レベルのクオリティだと思いますけどね。



[永瀬 里沙]
 「演技!もー大事だけどやっぱり顔!じゃない!?」


[朝蔵 大空]
 「か、顔」



 イケメン好きの里沙ちゃんは演技力よりもやはり顔か。



[永瀬 里沙]
 「だって王子よ!?王子なんてイケメンがやらなきゃ許されないって!演技だけ上手いブサ()の王子なんて、誰も望んでないわよ!」



 うわー、里沙ちゃん厳しー……。


 まあ気持ちは分かるし、うちの高校の人達は特にそれっぽい。



[朝蔵 大空]
 「ま、まあ今の時代メイクとかでなんとかなるんじゃない?」



 (ちまた)では整形メイクとか流行ってるらしいし。



[永瀬 里沙]
 「そんなのダメダメダメ!天然のイケメンじゃなきゃ!美味しく頂けない!」


[朝蔵 大空]
 「美味しく?えっ?」



 ちょっとよく分からない。


 その時、私達のそばに二階堂先生が通りかかる。



[二階堂先生]
 「ふぅ食った食った」



 先生はもう昼食を終えたようだ。



[永瀬 里沙]
 「先生もそう思いますよね!」



 里沙ちゃんが二階堂先生に声を掛ける。



[二階堂先生]
 「おっそうだな。やっぱ顔は大事だよな」


[永瀬 里沙]
 「えへへー、ですよねー。それとー、オーディションって具体的に何をするんっすかー?」


[二階堂先生]
 「オーディション?あーそんな事も言ったなぁ」



 二階堂先生自分で宣告しといて忘れてたのか……。



[永瀬 里沙]
 「えっ?やるんですよね?」



 里沙ちゃんはなんか必死だなぁ。


 私は別に、誰でも良いんだけどな。



[二階堂先生]
 「うーん言うて俺もよく分からないんだよなー、オーディションって何やれば良いんだ?」



 いや先生も分かってないんだ。


 まあ演劇部の顧問でもなんでもないしな、二階堂先生。



[永瀬 里沙]
 「えー私達に聞かれても困りますよー、先生しっかりして下さーい」



 里沙ちゃんがブーブー言っている。



[二階堂先生]
 「うーん、クラス(うち)で顔が良い奴は……」



 せ、先生でさえも完全に顔で選ぼうとしてる……。



[朝蔵 大空]
 「あ、あのー……ほんとに王子って7人も要るんですか?」



[二階堂先生]
 「何言ってるんだよ、台本だってもうそれ専用に書き上がってるんだぞ?」



 私も台本一応読んだけど、私にはちょっと理解が出来なかった。



[永瀬 里沙]
 「そうよ大空!王子は何人いても良いんだから!むしろお得よ!お得!」


[朝蔵 大空]
 「お得って……スーパーじゃないんだから」



 里沙ちゃんと先生、謎に意気投合してる。



[朝蔵 大空]
 「私はひとりで良かったと思うけどなー」


[二階堂先生]
 「よし!王子集めはお前らに任せる。最低でも1週間以内で見つけてくる事。頼んだぞ」


[永瀬 里沙]
 「あっ、え?」



 二階堂先生、私達に全投げしてったよね?



[二階堂先生]
 「あっ、クラスで居なかったら別のクラスから持ってくるのもアリだから〜」



 二階堂先生はそれだけ言い残して食堂から出て行った。



[朝蔵&里沙]
 「「別の……クラス?」」



 え?2年2組の出し物なのに!?


 別クラスから持ってくるのもアリって……。


 あの人どこまでアウトロー教師!?



[朝蔵 大空]
 「って言う訳だけど……どうする?」





 シュバババっ……!





 目にも止まらぬ速さでペンで紙に何かを書いている里沙ちゃん。



[朝蔵 大空]
 「!?ってもうなんか書いてるし!?」


[永瀬 里沙]
 「出来た!」


[朝蔵 大空]
 「何が出来たの?」



 私は書き上げられたものを見てみる。



[朝蔵 大空]
 「えっ、何これ」



 ふざけた文書と言うか勧誘と言うか。



[永瀬 里沙]
 「これをそこの廊下に貼るわ、これで王子の入れ食い状態よ!」


[朝蔵 大空]
 「こんなので上手くいくかなぁ〜?」



 でも里沙ちゃんがせっかく書いてくれたものだし、やるだけやってみよう。





 ザワザワ……ザワザワ……。





 そうすると狙い通り、人がまるで木の蜜に集まる虫のようになった。



[モブA]
 「何これ?」


[モブB]
 「参加資格2年生のイケメンって……」


[モブC]
 「俺らには関係無いな」



 昼休み、廊下でまあまあな人集りが出来た。



[永瀬 里沙]
 「皆見てくれてるっぽい!」



 先程の募集ポスターが思ったより話題になってるようだ。



[朝蔵 大空]
 「うん!どう?顔良い子いた?」


[永瀬 里沙]
 「うーん……全員フツメン……」


[朝蔵 大空]
 「そっか……」



 なかなか里沙ちゃんのお眼鏡に(かな)う子はいないかー。



[永瀬 里沙]
 「左から、フツメン、フツメン、フツメン、ブサメン、フツメン……」


[朝蔵 大空]
 「あーもーやめなよ!」



 ……。


 そして午後が始まる。



[女子生徒A]
 「あっ……」


[女子生徒B]
 「目合わせちゃダメだよ……」



 何かを恐れている女子達。



[笹妬 吉鬼]
 「……はぁ」



 その視線の先はこの男。



[嫉束 界魔]
 「おーい吉鬼ー!」


[笹妬 吉鬼]
 「うわ」



 休み時間、笹妬がひとりで廊下を歩いている時だった。



[嫉束 界魔]
 「ちょっと待ってよ吉鬼ー!」


[笹妬 吉鬼]
 「着いて来るなよ」



 嫉束が後から笹妬に追いついて来る。



[嫉束 界魔]
 「まあまあそんな寂しい事言わずに、友達だろ?僕ら」


[笹妬 吉鬼]
 「思ってもない事、言うもんじゃない」



 笹妬は嫉束とは目を合わせない、その代わりに笹妬の目に入ったのは……。



[笹妬 吉鬼]
 「……?」


[嫉束 界魔]
 「どうしたの、吉鬼?」


[笹妬 吉鬼]
 「いや、これ……」


[嫉束 界魔]
 「ん?」



 嫉束は壁の方に目を向ける。



[嫉束 界魔]
 「あ、こんな所に張り紙……ってなんか急いで書いた感凄いね」


[笹妬 吉鬼]
 「お、おう」



 そう、ふたりが今見ているのはお昼に里沙が書いたあの募集ポスター。



[嫉束 界魔]
 「えーっとなになに……王子募集中?2組は文化祭で劇をやります。王子役をやりたい人はクラス関係無く集まれー!(参加資格2年生のイケメン)、ちなみに姫役は朝蔵大空ちゃんでーす!って、えっ!?」


[笹妬 吉鬼]
 「どう言う事?」


[嫉束 界魔]
 「そのままの意味だよ吉鬼!大空ちゃんの王子役って事は、合法的に大空ちゃんに近付けるチャンス!」


[笹妬 吉鬼]
 「はぁ、お前応募すれば?」



 笹妬はあまり乗り気ではないご様子。



[嫉束 界魔]
 「吉鬼は?」


[笹妬 吉鬼]
 「は……?あ、いや俺は……」


[嫉束 界魔]
 「まあそっか吉鬼はどっちかって言うと悪役だもんねー」



 そう言って嫉束は笹妬を馬鹿にするように笑う。



[笹妬 吉鬼]
 「……」



 その時、もうひとり人の影が……。



[刹那 五木]
 「なんか面白そうな事やってるよねー」



 右から嫉束、笹妬と並んでその横に刹那が並ぶ。



[嫉束&笹妬]
 「「……」」



 嫉束と笹妬のふたりは刹那とは初対面だ。


 刹那はコミュ強なので知らない人でもガンガンに話し掛けていく。



[刹那 五木]
 「あ、ごめん。これこれ、これの話ね」



 刹那が壁に貼られている募集ポスターを指でトントンと叩く。



[嫉束&笹妬]
 「「……誰?」」




 つづく……。
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