悲恋の大空

第7話「ジンガイーズ!」

[如月 凛]
 「…………?」



 電気が消されロウソクの火だけが灯るリビング、そして手で目隠しをされる凛。



[朝蔵 大空]
 「はいっ、もう目開けて良いよ凛さん」


[如月 凛]
 「は、はい!」



 凛は目元を(おお)っていた手をどかされ、次に両目を開ける事になる。



[如月 凛]
 「……ふわぁ」



 凛の目の前には、真っ白な苺のホールケーキが置いてあった。


 『ウェルカム・リンちゃん!』とチョコプレートにはホワイトチョコで書かれている。



 今夜はリンさんの歓迎会。


 その日は家族全員で美味しいご馳走とケーキを食べた。



[如月 凛]
 「ありがとうございます、お部屋まで用意して頂いて」


[朝蔵 大空]
 「ずっとソファじゃ辛いと思って、掃除はしてあるんで。今日からここで寝て下さい」



 今居るのは私のお父さんの部屋。


 ずっと使われず、掃除する前は(ほこり)だらけだった。



[如月 凛]
 「はい!大事に使いますっ……?」



 凛がデスクに並べてあるアルバムのような物を見つける。



[如月 凛]
 「ソラ様!この本のような物はなんですか?」



 凛はそれを両手で手に取って大空に見せる。



[朝蔵 大空]
 「……これ、アルバムですね」



 アルバム……お父さんの部屋にずっとあったんだ。


 なんだか意外、家族の事なんて興味無いはずなのに。



[如月 凛]
 「見ても良いですか?」


[朝蔵 大空]
 「大丈夫ですよ」



 私とリンさんは一緒にアルバムを(めく)って見ていく。



[如月 凛]
 「わー!皆さん可愛いですねぇ」



 私や兄弟の小さな頃の写真が、いっぱい入っている。


 全く見た事無い写真。


 これを撮ったの、全部お父さんなの?



[朝蔵 大空]
 「……?」



 アルバムの最後のページ、そこには海で知らない男の子と映る私の写真。



[朝蔵 大空]
 「これ……」



 しかも、映りと言うか画質が凄く悪いように見えた。


 それになんだか"暗い"。



[如月 凛]
 「うーん?どうしたんですかー、ソラ様?」



 この男の子、誰……?


 この、真っ黒な目の男の子は……。





 ズキンっ……。





[朝蔵 大空]
 「!!?」





 ズキン!ズキン!





 何!?


 急に、頭が……胸が。


 痛いっ!!



[如月 凛]
 「ソラ様!?大丈夫ですか!?」


[朝蔵 大空]
 「はぁ……はぁ……はぁ」



 痛みが止んだ……なんだったの今の。


 私、何かが……おかしい。


 ……。



[アリリオ]
 「で、結局君達は何をやろうとしているの?こうやって初めて4人で集まれた事だし、改めて説明してほしいんだけど」


[如月 凛]
 「そう!私からもお願いしたいです!」



 今晩は凛、アリリオ、卯月、ミギヒロの4人で人があまり来ない夜の公園に集まっている。



[加藤 右宏]
 「説明しヨウ!我々悪魔と天使の……」


[卯月 神]
 「《《天使》》と《《悪魔》》のっっ!」



 卯月がミギヒロの言い方が気に食わなかったのか、言い直させようとする。



[加藤 右宏]
 「おっと……ソノ名も天使と悪魔の"一石二鳥"作戦〜!!」





 パフパフパフっ!♪





[凛&アリリオ]
 「「イッセキニチョウ作戦??」」



 ふたりとも頭にハテナマークを浮かべる。



[アリリオ]
 「ナニソレ」


[如月 凛]
 「また初めて聞く言葉なのです!」


[アリリオ]
 「どう言った意味なの?」



 アリリオがミギヒロに問い掛ける。



[加藤 右宏]
 「1個の石で2羽の鳥ガ同時に討伐出来るって事ダ!つまりオレ様とシン様の野望も2個同時に実現してしまうと言う事なのダー!」



 ミギヒロがゴリ押しで説明してみる。



[アリリオ]
 「……?」



 だがアリリオにはイマイチ伝わらなかったみたいだ。



[如月 凛]
 「シンは、ソラ様に"救済"をしてもらって、人間を天使に転生させる……」


[アリリオ]
 「ミギヒロ(おうじ)は黒魔法を成功させて魔王になれると……」


[卯月 神]
 「はい」


[加藤 右宏]
 「ソウダゾ!オレ様が魔界の政治を維持、そして"管理"してやるんだぞ〜!」


[凛&アリリオ]
 「「うーーん……」」



 凛とアリリオが不安そうな表情でお互い顔を見合わせる。



[如月 凛]
 「正直、悪い事ではないんです。現世で救われず悲しみを背負ったまま消えてしまった命は、悪霊や悪魔、時には怪異などに生まれ変わって、その悲しみを全世界にも広めようとします」


[アリリオ]
 「地獄でそんなのが溢れてるよ、逃げ出して人間界に降りて来ちゃう奴も居るみたいだし。当然悪さもする」


[加藤 右宏]
 「だからどうしようもない奴は魔界で徹底管理!マッタク迷惑な話ナンダぞー!」


[如月 凛]
 「あっ!だから"救済"が必要なんです、生きている内に魂を救えれば悪霊になる事もありません。それが私達天使の仕事。そうですよね、シン?」



 凛が卯月に答えを求める。



[卯月 神]
 「その通りです。ですから協力して下さい。リン、アリリオさん」


[アリリオ]
 「……O K」


[如月 凛]
 「はい!"愛"で世界を救いましょう!」


[卯月 神]
 「ありがとうございます」


[加藤 右宏]
 「よっしゃー!これからは4人チームで頑張るンだぞ〜!」



 4人がそうやって奮起していると……。



[中年警官]
 「君達、こんな夜遅くに何をしているのかな?早くお家に帰った方が良いんじゃない?」



 ひとりの中年警官が4人に声を掛けてくる。



[加藤 右宏]
 「ナンダー!オレ様達今大事な話してるんだゾ!邪魔スンナ!!」



 ミギヒロは警官を追い払おうとする。



[如月 凛]
 「わぁ〜!そのお召し物、とても素敵ですね!どこに売っているんですかー?私も欲しいんですけど!」



 凛は警官の制服に見とれながら警官に近付いて行く。



[中年警察]
 「……?君達ちょっと」



 4人を怪しむ警官。



[卯月&アリリオ]
 ((これはまずい……))



 卯月が凛を追い掛けて凛に手を伸ばす。



[如月 凛]
 「わっ……」


[卯月 神]
 「すみません、リン(この子)少し変わってるんです。ご迷惑をお掛けました」



 卯月が凛の首の後ろの服を掴んで引っ張って警官に頭を下げる。



[アリリオ]
 「王子、逃げましょう」


[加藤 右宏]
 「……!?」



 アリリオはミギヒロを捕まえて一目散に逃げようする。


 卯月も凛を連れてそれに走って着いて行く。



[如月 凛]
 「あー!せめて!せめてそのお帽子だけ、触らせてもらえませんかー!?」



 4人が去り、静かになる夜の公園。



[中年警官]
 「……イカれちまってるな」


 
 ……。





 パン!パンパン!パン!





 花火の音が数発聞こえる。


 土屋校文化祭その名も『ゆうぎ(さい)』開催!!



[朝蔵 大空]
 「公演は13時からだったよね?」


[永瀬 里沙]
 「合ってるよー」



 じゃあそれまで私達も文化祭を楽しみますか!!



[永瀬 里沙]
 「どうする?3組行ってみる?」


[朝蔵 大空]
 「あ、うん、いいよ!」



 3組ってアンジェリカさん達が喫茶店やってる所だよね……。


 また何か言われたら怖いけど。



[2年3組女子]
 「おかえりなさいませ、お嬢様」


[大空&里沙]
 「「は、はい!」」



 わぁ〜!皆さん可愛らしいですねー!


 メイド服を着た可愛いお姉さん達がいっぱい!


 確か3組って、女子が多いんだっけ?



[2年3組男子A]
 「俺らはやっぱ雑用か……」


[2年3組男子B]
 「ブサメンは辛いべ」



 あ、男子達が隅の方に追いやられてる。


 ちょっと可哀想……。


 私と里沙ちゃんは席に座らせられる。


 軽い飲み物だけ頼んで少し時間を潰そうと思う。



[永瀬 里沙]
 「結構本格的だね……」


[朝蔵 大空]
 「そうだね、衣装とかも、高そー」



 フリルいっぱいの良い布を使ってそうなメイド服が眩しい!!


 部屋の中もちゃんとお店っぽくなってるし、クオリティ高いなぁ。



[永瀬 里沙]
 「これが杉崎家の財力かー」


[杉崎 アンジェリカ]
 「あら、貴女達は……」



 気が付くと杉崎が飲み物を運んで来ていた。



[大空&里沙]
 「「ぎくっ……あ、どーもー……」」



 杉崎さん、やっぱりオーラと圧が凄いよ〜。



[杉崎 アンジェリカ]
 「お待たせ致しました、オレンジジュースとリンゴジュースでございます!」



 飲み物の置き方にさえ何故か圧を感じる。


 ちなみに私がリンゴジュースで、里沙ちゃんがオレンジジュースだ。



[永瀬 里沙]
 「ありがとうございまーす……」



 杉崎さんはそれだけ済ませて別のテーブルの方へと移って行った。



[永瀬 里沙]
 「お、落ち着かないね……?」


[朝蔵 大空]
 「早めに出よ……」



 そう言って私はジュースに手を伸ばす。



[朝蔵 大空]
 「……あっ!」



 飲もうとしていたのに、私はコップを倒してしまってジュースをテーブルや床、自分衣服にも少し零してしまった。



[永瀬 里沙]
 「あちゃー……」


[朝蔵 大空]
 「ご、ごめんなさい……」



 私は自分で零した物を片付けようと、おしぼりを手に取る。



[剣崎 芽衣]
 「大丈夫ですか?」



 ふわぁっと広がる花の香りが私をハッとさせる。



[朝蔵 大空]
 「!?」



 こ、この声は……芽衣様!?


 な、なんて美しいの!?



[永瀬 里沙]
 「芽衣様だ……」



 芽衣様までメイド服を着ていらっしゃる!!



[剣崎 芽衣]
 「お怪我はありませんでしたか……?」


[朝蔵 大空]
 「な……無いですぅ」



 私はメイド服姿の芽衣様を見て、どっかのファンクラブの人間みたいに目にハートを浮かべる。



[剣崎 芽衣]
 「……?あっ、朝蔵さん?」



 わわわ!



[朝蔵 大空]
 「は、はい!?」


[剣崎 芽衣]
 「やっぱり朝蔵さんだっ!あ、ちょっと聞きたい事があるんだけど。劇やるんだよね?何時から?」


[朝蔵 大空]
 「げげげっ……!」


[永瀬 里沙]
 「げ、劇は13時からです」



 私の代わりに里沙ちゃんが芽衣様の問いに答える。



[剣崎 芽衣]
 「13時……分かりました!私も行くから、楽しみにしてます!確かうちのクラスの、嫉束君も?出るんだよね、王子役として!」


[朝蔵 大空]
 「は、は、はい!使わせてもらいます!」


[永瀬 里沙]
 「大空……ちょっと落ち着きなさい」



 こんなに美しい芽衣様を目の前にしたら、落ち着けるはずがないよ!!


 て言うか、芽衣様も来るって……。


 マジーーー!!?


 ……。



[他校の女子A]
 「"嫉束界魔"、ほんとにイケメンだったねー」


[他校の女子B]
 「あれはレベチ。何千年にひとりのレベルだわ」



 他校の女子達が土屋校の男子について騒いでいる。



[他校の女子C]
 「ちょっと待って」


[他校の女子A&B]
 「……?」



 彼女達の視線の先には……。



[刹那 五木]
 「……」



 この男。



[他校の女子C]
 「あれ、刹那五木じゃない?」


[他校の女子A]
 「あーサッカー部の奴でしょ、あれもレベル高いよねー」


[他校の女子B]
 「あの人と付き合えたら、自分のレベルも上がりそう!」


[他校の女子A]
 「えっ、でも遊んでそうじゃない?チャラそう」


[他校の女子C]
 「確かに」



 女子達は刹那を見てクスクスと笑う。



[刹那 五木]
 (……遊んでないし)



 案の定刹那には会話の内容は全部聞こえている。


 刹那はそれを聞いて少し不機嫌になる。



[刹那 五木]
 「ちょっとおれ、トイレ行ってくるわ」


[刹那の友達]
 「おう」



 刹那がそう言って友達から離れたその時……。



[朝蔵 千夜]
 「いた」



 刹那の背後から。



[朝蔵 千夜]
 「いーつーきーくん」





 つづく……。
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