悲恋の大空

第9話「トリトカブト」

[不尾丸 論]
 「それで? 朝からオレら集めてなんのつもり?」



 私は朝のホームルーム前に不尾丸くん、仁ノ岡くん、原地くんの三人衆に会議室へと集まってもらった。



[仁ノ岡&原地]
 「「……」」



 不尾丸くんの背中側に居るふたりは、空気を読んでいるつもりなのかいつもより静か。



[永瀬 里沙]
 「な、なんか暗くなーい? テンション上げてこーよー! ヒューヒュー」


[朝蔵 大空]
 「里沙ちゃんそう言うの良いよ……」


[不尾丸 論]
 「この前のこと、話してくれる気になった?」


[朝蔵 大空]
 「う、うん! 実はそうなんだ!」



 大丈夫、ちゃんと言い訳も考えてある。


 あとは上手く騙せるように演技するだけ。



[仁ノ岡 塁]
 「何かあったのか?」


[朝蔵 大空]
 「あの、この前の『未来の旦那様♥ちゅきちゅきらぶゆー♡』の件なんですけど……」


[永瀬 里沙]
 「ぷっ」



 笑うな。



[朝蔵 大空]
 「私の隣に居るこの子のことなんです!」


[永瀬 里沙]
 「は〜い! 私が大空の未来の旦那様です♡」


[不尾丸 論]
 「女子じゃん」


[朝蔵 大空]
 「で、ですので、彼氏とかではなく、友達同士でふざけてただけで……」


[不尾丸 論]
 「じゃああのメールの内容は?」


[永瀬 里沙]
 「あれは要するに交換日記だよ〜、最近流行っててー、女子は皆んなやってるよー」


[朝蔵 大空]
 「そうです!」



 なんとかなれ……。



[不尾丸 論]
 「分かった」


[原地 洋助]
 「さっきからなんの話?」



 良かった、不尾丸くん納得してくれたみたい!


 ……。



[不尾丸 論]
 「なーんて、オレがそんな簡単に騙されるわけないでしょ、可愛いね先輩」



 その日の夜、自室にこもり何かの作業に没頭する不尾丸。



[不尾丸 論]
 「戸籍も無ければ、住所も無い、完全に身元不明の推定17歳の中肉中背の男性、名前は " 卯月神 " ……か」


[仁ノ岡 塁]
 『論ー! 梨あるぞー!』



 不尾丸は一旦無視して作業を続ける。



[不尾丸 論]
 「はぁ先輩、先輩なんで嘘つくのかなぁ、隠す必要って何? なに? なんの為? 別れさす? 別れさせちゃおっかなぁ」


[原地 洋助]
 『おい! ひとり3個までって言われただろーが!』


[仁ノ岡 塁]
 『悪い!』



 キッチンで怒鳴り合う仁ノ岡と原地の声が聞こえてくるのを無視し、盗撮した卯月の写真を見つめる。



[不尾丸 論]
 「すぅ……はぁ…………腹立たしいけど面白いから、しばらく泳がせてみようかな」



 ……。


 翌日の朝。



[朝蔵 大空]
 「卯月くんおはよー!」


[卯月 神]
 「おはようございます」


[朝蔵 大空]
 「一緒に教室行こ♡」


[卯月 神]
 「はい」


[朝蔵 大空]
 「見て!」



 私はカバンを開いて卯月くんにとあるものを見せる。



[卯月 神]
 「なんですか? それ」


[朝蔵 大空]
 「鍵盤ハーモニカだよ、持ってきちゃった」


[卯月 神]
 「ふーん」



 私が卯月くんと教室に行こうと、階段を上がろうとしたその時だった。



[不尾丸 論]
 「先輩おはよ」


[朝蔵 大空]
 「ひゃっ、おはよう……」


[不尾丸 論]
 「仲良いんだね、おふたりさん」



 やば、バレてないよね?



[卯月 神]
 「……?」


[朝蔵 大空]
 「あ、ちょ、不尾丸くん何してるの?」


[不尾丸 論]
 「よっと……卯月先輩ごめんねぇ? コレちょっと借りるね」



 軽々と持ち上げられ、車椅子に乗った不尾丸くんの膝の上に乗ってしまった。



[朝蔵 大空]
 「え! え! 足、大丈夫なの?」



 何この状態?



[卯月 神]
 「え、ゴリラ……?」



 卯月くんもめっちゃ驚いてる!


 でも卯月くん、その形容の仕方はちょっと失礼だよ!


 一体誰に習ったの!?



[不尾丸 論]
 「大丈夫だよ? ちょっと重たいけど」


[朝蔵 大空]
 「は!?」



 私は不尾丸くんの膝の上から降りようとするが、不尾丸くんの腕にホールドされて降りられなかった。



[不尾丸 論]
 「あは、冗談だから暴れないで」


[朝蔵 大空]
 「わ、私教室行きたいんだけど……」


[不尾丸 論]
 「卯月先輩」


[卯月 神]
 「はい」


[不尾丸 論]
 「ふたりの時間、邪魔してごめんねー」


[朝蔵 大空]
 「ちょっと!」



 私どこ連れてかれるの?


 て言うかこの車椅子、電動でも動くんだ!?



[卯月 神]
 「激重性悪怪力(げきおもしょうわるかいりき)ゴリラ……」



 ……。



[朝蔵 大空]
 「私もう行っていい?」


[不尾丸 論]
 「えー、まだホームルームまで時間あるでしょー」



 あのまま職員駐車場の隅に連れて来られてしまった。


 道中、人に見られたりもしてめっちゃ恥ずかしかった……。



[不尾丸 論]
 「この前勝手に先輩のケータイ見ちゃってごめんね?」


[朝蔵 大空]
 「ほ、ほんとだよ!」


[不尾丸 論]
 「ねぇ、年下に攻められるの好きなんでしょ?」


[朝蔵 大空]
 「へ?」



 いきなりなんの話?



[不尾丸 論]
 「見たよ、小説」


[朝蔵 大空]
 「は…………」


[不尾丸 論]
 「洋助に攻められる妄想でもしてた? それとも塁にだったりするのかなぁ?」


[朝蔵 大空]
 「ば……」



 馬鹿な……もしかして絶対人に見られたくない夢小説見られた!?


 しかもあれ、私の趣味じゃなくてネッ友に頼まれて書いた年下攻め二次創作!!



[朝蔵 大空]
 「ち、違う!」



 どうしよう、顔真っ赤にして今すぐここから逃げてやりたい。



[不尾丸 論]
 「ねぇ、あの先輩と別れてよ」


[朝蔵 大空]
 「え?」



 里沙ちゃんのことを言っているなら、里沙ちゃんはただの女友達だから別れるも何も無いけど。



[朝蔵 大空]
 「あ、あのね、里沙ちゃんとはほんとに付き合ってるとかじゃなくて……ノリで」


[不尾丸 論]
 「嘘つかなくていいよー、先輩。 さっき一緒に居た人が彼氏でしょ? ねぇオレ考えたんだけどさ、将来オレと結婚しよ? オレ、塁と洋助のこと説得するからさ、そしたらいつでも会えるじゃん」



 なんか勝手に話進めてる……めっちゃ怖い。



[朝蔵 大空]
 「違う! 違う!」


[不尾丸 論]
 「何が違うの? ねぇー、逃げようとしないでよー」


[朝蔵 大空]
 「く、苦しい……」



 その時、私はカバンが開きっぱになっていたことに気付く。





 ガタン……。





 私の鍵盤ハーモニカがカバンから落ちて地面に転がる。



[不尾丸 論]
 「…………」


[朝蔵 大空]
 「あっ、そうだ。 実は練習してて……まだ下手っぴだけど」


[不尾丸 論]
 「……」


[朝蔵 大空]
 「ねぇ、昔ピアノやってたんでしょ? こ、今度不尾丸くんのお(うち)行った時弾いてるところ見てみたいなー」


[不尾丸 論]
 「やめて……」


[朝蔵 大空]
 「元吹奏楽部だから絶対上手だよね!」


[不尾丸 論]
 「……あ」



 ──『あの " 足 " でコンクール出られても悪く目立つよねー』


 ──『自己満足で部活やられてもなぁ、俺らは本気でやってんのにさ』



[不尾丸 論]
 「降りろ!!」



 ドンッと飛ばされ、不尾丸くんの膝の上から降ろされる。



[朝蔵 大空]
 「え……」


[不尾丸 論]
 「最悪! 誰から聞いたんだよ!? ピアノのことなんて思い出したくないのに!!」



 え、ピアノに何かトラウマがあるの?



[朝蔵 大空]
 「ごめん音乃会長から聞いたの……私知らなくて……」


[不尾丸 論]
 「知らないなら踏み込んでくんなよ! ピアノも、お前も、音乃先輩のことも、全部大嫌いだー!!」



 こんなに大きな声出してる不尾丸くん、初めて見た……。



[不尾丸 論]
 「はぁはぁ、はぁ……オレもう行くから」



 何がなんだか分からないまま、不尾丸くんは私の前から消えてしまった。


 ちゃんと謝れなかった……。


 ……。



[永瀬 里沙]
 「大空〜」


[朝蔵 大空]
 「あ、里沙ちゃん……」


[永瀬 里沙]
 「なんか元気無くない?」


[朝蔵 大空]
 「そうかな?」



 私の元気が無いのは、大事なお友達を深く傷付けてしまったから。



[永瀬 里沙]
 「まあいいや、ねぇねぇ! 駅近に新しい可愛いカフェ出来たんだけど、行かない?」


[朝蔵 大空]
 「う、うん! 行こうかな」



 朝の不尾丸くん、凄く怒ってた。


 今謝りに行っても、逆に興奮させてしまいそうで……多分、私の顔なんてしばらく見たくないよね。


 ……カフェタイム後。



[朝蔵 大空]
 「パフェ美味しかったねー」


[永瀬 里沙]
 「うん! でさー、この辺ですっごい美少年見掛けたって言うのを聞いてさぁ……」


[朝蔵 大空]
 「へ〜」



 私と里沙ちゃんはイケメントークで盛り上がった。



[永瀬 里沙]
 「私トイレ行ってくる。 先で待ってて!」


[朝蔵 大空]
 「うん!」



 その時、路地裏から怪しい気配を感じた。


 うわぁ、ここの路地裏怖いなぁ、早く通り過ぎよっと。



[不尾丸 論]
 「……よし」


[卯月 神]
 「ちょちょちょい、一旦戻って一旦戻って」


[不尾丸 論]
 「え、なになに? え?」


[卯月 神]
 「びっくりした……」


[不尾丸 論]
 「こっちのセリフなんだけど」



 小刀を持って路地裏から出ようとした不尾丸を後ろから卯月が引き止める。



[卯月 神]
 「それ、その刃物何? 何しようとしてた?」


[不尾丸 論]
 「あぁ、朝蔵先輩の彼氏さん……未来の旦那様ですか」


[卯月 神]
 「その名で呼ばないで下さい」


[不尾丸 論]
 「つけて来てたのかよ……うざ」



 今の状態は、大空達のことを尾行していた不尾丸を、尾行していた卯月と言う状態である。



[卯月 神]
 「それで朝蔵さんに何をしようとしてたんですか?」


[不尾丸 論]
 「刺そうかなって」


[卯月 神]
 「え、展開早すぎません? 貴方の出番まだ『9章』ですよ? こんな序章でルート入られても困るんですけど……」


[不尾丸 論]
 「はい?」


[卯月 神]
 「刺してどうする気だったんですか?」


[不尾丸 論]
 「……オレも死ぬ」


[卯月 神]
 「いけません! はぁ……心中(しんじゅう)系ときましたか」



 卯月は深いため息をつく。



[不尾丸 論]
 「ねぇ朝蔵先輩と別れて下さいよ。 どうせそんなに好きじゃないんでしょ?」


[卯月 神]
 「そんなことはありません」



 きっぱりと答える卯月。



[不尾丸 論]
 「あ、そう。 別れてくれないんだね」


[卯月 神]
 「はい」


[不尾丸 論]
 「じゃあしょうがないね、そこ動かないで」



 不尾丸は小刀を卯月に構える。



[卯月 神]
 (殺される……!)


[卯月 神]
 「あの、死ぬ殺されるで解決するんじゃなくて、何かしらの勝負にしてくれませんか?」


[不尾丸 論]
 「勝負?」


[卯月 神]
 「お願いします!」



 卯月はその場で不尾丸に向かって土下座する。



[不尾丸 論]
 「そうだね、ちょっとオレも熱くなりすぎた」


[卯月 神]
 「ホッ……」


[不尾丸 論]
 「家まで送ってくれる?」


[卯月 神]
 「はい、もちろんでございます」



 病愛(ヤンデレ)相手にはちゃんと下手(したて)に出ないと()られるよ☆



[卯月 神]
 「んーっ! んんんんん!(あのー! なんで縛ったんですか?)」


[不尾丸 論]
 「塁達帰って来るまでここで待っててくれる?」



 空き部屋に鍵を掛けられて閉じ込められた卯月だった。


 ……。



[不尾丸 論]
 「さ、もう喋っても良いよ」


[卯月 神]
 「はぁはぁ……えっと、僕は何すれば……?」


[原地 洋助]
 「聞きましたよ、やっぱり大空先輩と付き合ってたんですね。 いつからですか? ボクが問い詰めた時も本当は付き合ってたんですか?」


[仁ノ岡 塁]
 「地獄へ落ちろ」


[卯月 神]
 「バ、バラしたんですかー?!」


[不尾丸 論]
 「うん」



 まさに卯月にとって絶望的な状況だった。



[卯月 神]
 「許して下さい、なんでもしますから」


[不尾丸 論]
 「まあそんな怖がんないでいいよ、オレらと勝負してくれるんだよね?」


[卯月 神]
 「はい……」


[不尾丸 論]
 「よし、それじゃ腕相撲で勝負といこうか」


[卯月 神]
 「腕相撲? なんですかそれ」



 天界育ちで腕相撲を知らない卯月。



[仁ノ岡 塁]
 「知らないのか?」


[原地 洋助]
 「やってみたら分かるでしょ」


[不尾丸 論]
 「洋助の言う通り。 3回勝負で卯月先輩が2回オレらに勝てたら、朝蔵先輩と恋人でいるの許してあげる」


[卯月 神]
 (僕の意思は? 無いの?)


[原地 洋助]
 「じゃあ練習やってあげるから、机に腕置いて」


[卯月 神]
 「こうですか?」


[原地 洋助]
 「そう。 いい? こうやるんだよ、理解出来た?」


[卯月 神]
 「はい、出来ると思います」


[原地 洋助]
 「じゃあこのまま1回戦行くね。 あと、おれスポーツマンシップ守らない奴大嫌いだから」


[卯月 神]
 「ぐっ……」



 卯月と原地の腕相撲対決が始まった。



[卯月 神]
 (絶対勝ちます!)


[原地 洋助]
 「それ本気?」


[卯月 神]
 「はい!」


[原地 洋助]
 「話にならないね」


[卯月 神]
 「うわっ!」



 序盤は手加減していた原地が一気に卯月の腕を倒す。



[不尾丸 論]
 「ふふ」


[仁ノ岡 塁]
 「次は俺様だな、負ける気は無い! 来いゴッド卯月!」


[卯月 神]
 「は、はい! って変なあだ名付けないで下さい!」



 卯月と仁ノ岡の腕相撲対決が始まった。



[卯月 神]
 (今度こそ……ってあれ?)


[仁ノ岡 塁]
 「ぐぬぬ……」


[卯月 神]
 (さっきの原地くんの時と違ってかなり軽く感じる……)


[卯月 神]
 「え、すみません」


[仁ノ岡 塁]
 「うわーん、負けたぁ」



 今度は軽々と勝ってしまう卯月。



[不尾丸 論]
 「最後はオレだね、オレに勝ったら卯月先輩の勝ち、約束するよ」


[卯月 神]
 (忘れてましたけど僕天使でした、パワー増幅の加護があれば、人間なんざに負けるはずありません、最後はこの力を使って勝ちます!)



 卯月と不尾丸の腕相撲対決が始まった。





 ドン!





[卯月 神]
 「ぐわぁ!!」



 その時、卯月は思い出した。


 バイト中に仁ノ岡に聞かされた話を……。



[卯月 神]
 『今夜は暇ですね』


[仁ノ岡 塁]
 『卯月、ゴリラ人間と言うものを知っているか?』


[卯月 神]
 『知らないですけど、なんですかそれ?』


[仁ノ岡 塁]
 『卯月よ、論はな……りんごを片手で潰せる』


[卯月 神]
 『ヒェッ……』



 そして今に戻る。


 それはまさに瞬殺だった。



[不尾丸 論]
 「はいオレらの勝ちー、先輩の負けー」


[仁ノ岡 塁]
 「くはははは! 見たかこれが我らの真のパワーよ!」


[原地 洋助]
 「お疲れっしたー」



 部屋に取り残される卯月。



[卯月 神]
 「神の力より強いって……病愛(ヤンデレ)って、つえーですね……」





 つづく……。
< 69 / 75 >

この作品をシェア

pagetop